散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

海底47m

絶望×絶望×絶望。 なけなしの勇気が何一つ報われない、これほど不憫な主人公も珍しい。 底なしの海底。視界の閉ざされた海中はまるで、放り出された宇宙の彼方。右も左も見えず、わからず、暗中に一人ぼっちの恐怖は二重、三重の呼吸困難を引き起こす。 圧倒…

ラスト・デイズ

絶望の病に侵された“ひきこもり”世代の諸君へ。本当の愛や幸福やというものは、暗闇のその先に、恐怖に打ち勝った者だけが目にすることのできる景色。端からこの世界に希望なんてない。まだ見ぬ未来に生み出そうとするそれこそ、人生の営みなんだと。 これで…

耳をすませば

“ひとりぼっち おそれずに 生きようと 夢みてた……” 耳をすませば、今も聞こえてくる音楽、口ずさむ「カントリーロード」。そしてよみがえる“コンクリートロード”、つまり僕らの故郷の風景。帰りたい、帰れない思い出が巡る。 雨のにおい、木漏れ日の煌めき、…

エンド・オブ・ザ・ワールド 地球最後の日、恋に落ちる

よっしゃ、UFO襲来! これで何度目の“エンド・オブ・ザ・ワールド”だろうか。いつまでも世界の終わりを待望している場合だろうかって、迷う間も無く再生しているのだけど。この手のジャンルムービーも、たまに全く思ってもみなかった変化球が飛んでくるので…

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

「アメリカン・ドリーム」と言えば聞こえはいいが、そこは人々の際限なき欲望と悪意が支配する無慈悲なる淘汰の世界。夢や希望や、理念など掲げようものなら、そんな綺麗事は脆くも崩れ去り、勝利のみに価値は認められる。やったもん勝ち、勝ったもんが正義…

マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン

芸術性と商業性の折り合いをつけるために、“奇妙”と“普通”の間で収めることを良しとせず、より説得力のある“奇妙”を目指す。その作家主義は誰の目にも明らか。にもかかわらず、観客の反応を人一倍気にするレフンの素顔。 自ら設定するアンビバレントに引き裂…

アナと雪の女王/家族の思い出

大切な誰かを傷つけてしまうことを何より恐れる優しさの弱さ。愛ゆえに人を遠ざけ、心の扉を閉ざして独り消えてしまいたいと願う者の凍りついた心を溶かせるのも、やはりそれは愛なのだ。 アナ雪が再定義した「真実の愛」は革新的であった一方、家族という“…

風の谷のナウシカ

ぼくらは一体いつまで、少女の無垢に世界の希望を託し、または悲しみのすべてをその一身に押し付けて涙する物語に耽溺しているのだろうか。 大人になってようやく気付く。この時代に生まれ、この国の大衆の子どもとして育った者にとってのジブリアニメの影響…

シティーハンター ザ・シークレット・サービス

ハードボイルドという男のロマンにいまいちピンとこず、その語意も掴めずにいた頃に出会したのが、饒舌でスケベなそれもハードボイルドと謳われる──冴羽獠、その男なのであった。 再放送世代。虚構の東京シティーにノスタルジー入り混じった憧憬は抱かれ、閉…

2018年の映画生活ベスト10

1. ブレードランナー 2049“あぁ、見果てぬ悲しみの終末はこんな景色であったかと。天を見上げる男の無表情の表情が語らずして語りうることすべて” 2. メッセージ“既に結び終わった「物語」を。現在とそれ以外、刹那と記憶の点と線を同時に辿る人生である” 3.…

COMET コメット

『ミスター・ノーバディ』と『メッセージ』と『ブルーバレンタイン』と『(500)日のサマー』と『ワン・デイ 23年のラブストーリー』と『ビフォア・サンライズ』と『ラ・ラ・ランド』と『恋に落ちる確率』と……と、嘗て束の間の夢に見た“美しい夜”の数々が、…

LOL 愛のファンタジー

「愛のファンタジー」と言えば『ラ・ブーム』。続編には「恋する瞳」と、珠玉のラブソングがテーマを飾る。あれからおよそ四半世紀──ソフィー・マルソーもとっくに母になって──第三作と言っても差し支えないほどオマージュたっぷり、ムードそっくりな今作の…

あなたの旅立ち、綴ります

まだ何者でもない私でも、“何か”になれることには違いない。“何か”の物語を綴る自分自身に対して正直な日々であれば、私は私でしかない人生、いつも私は最高なのだ。 良い一日を──ではなく、本物の一日を。危険を承知でバカなことをするか、危険を承知でスゴ…

サンタクロースになった少年

サンタクロースになった少年。その名は、ニコラス。 サンタクロースが、“聖(セント)ニコラス”に由来することは、学校の自由研究で題材に選んだ時からもう知っていた。それだけクリスマスが特別な子だった。お正月よりも、クリスマス。誕生日プレゼントより…

ワンダーストラック

時の流れが人々を分かち、また繋いでもいる。そのことを語りうる時間の芸術、映画なのだと──。 映画は映るものすべてに時を与え、時の流れに記憶は刻まれていく。記憶は被写体のそれであり、観客のそれでもある。スクリーンの向こう側で交差する記憶と記憶に…

エブリシング

ガラスの城のお姫さま、星の王子さまと出会う。 ディズニープリンセスみたいに表情をコロコロと、大きな目を三日月にして笑う、愛すべき少女の初恋を画面越しに見守る。 恋とは、命懸けで束の間を生きること。"Love is everything.Everything."そのことを一…

エブリデイ

明日をも見えない毎日に、君に出会って、はじめての感情を知ったあの頃。一度きりの人生、あっという間の一日、この一瞬を片時も逃さずに生きたいと願ったあの頃。最初で最後の初恋がこの世界の美しさを教えて、人生の意味は決まったんだ。 恋が終わっても続…

セブン・デイズ・イン・ハバナ

"ユーマ"とキューバ、男と“女”。クストリッツァとトランペッター。歌と野球と、夢と恋人。カストロ、海辺、待ちぼうけの午後。少女と少女、その肉体の汚れに──。「愛しているわ」と、亡命の朝に。聖母と泉と歌と踊りと、サンテリアの宴。 朝は夕暮れ、夜は昼…

未来を花束にして

"DEEDS NOT WORDS"言葉より行動を。 過激な武力闘争が正しいとは言わないまでも、聞く耳を持たない相手に一体どんな言葉を用いろと言うのか。体制に一石を投じる“先導者”がいてこそ、平和的解決への道も開けるというもの。大きな波紋が広がって、やっと変革…

ザ・フレーム

この人生は筋書きのあるドラマ、創られた物語ならば、どこかで誰かに覗き見られているに違いないという強迫観念、あるいは孤独が癒されるなら、誰かと繋がっていられるのなら、時空を超えた向こう側の世界であってもいい、どうか私の人生を見ていてほしいと…

リヴォルト

“生きることは戦い、戦うことが生きること”しばしその戦いをフィクションの主人公に託し、現実からの逃避を夢見る映画鑑賞にあっては、人類滅亡の危機くらいの振れ幅があってちょうどいい。 無駄にウェルメイドなルックでオリジナリティの欠片もない量産型“…

クラウン

『スパイダーマン ホームカミング』、『COP CAR コップ・カー』より遡って、ジョン・ワッツ長編デビュー作においても、父性と対峙する少年の成長譚をモチーフとするその作家性は一貫しているが、他二作に比べ、少年としては最も幼く非力で、乗り越えるべき父…

悪魔の陽の下に

無力な、無意味な人生の実存に迷い、神の道を外れ、絶望の淵をさまよい歩く人間の、沈黙の叫び。死ぬまで終わることのない試練と孤独の闇に陽の光が差し込むならば、悪魔も救いの神となろう。 内なる悪を知ることで再び善は認められ、やはり愛へとたどり着く…

さらば、愛の言葉よ

“考えないということが思考に悪影響を及ぼすかどうかは分からない”そう、本質は直感によって掴み取ることができるのである。 “メタファー”とは一対一に符合する関係を見出すことではなく、その隠喩表現の革新性を凝視することそのものに豊かさは保たれる。 …

ウエストワールド<セカンド・シーズン>

自由という名の牢獄が人間を自由意志の不能に直面させる。生存本能と欲望の狭間に、驚くほど単純なコードで埋め込まれた性格と「物語」とその役割の中で、与えられた選択肢もまた創られた幻想に過ぎないとすれば。愛と自尊心に揺れる人間性もまた再現性の認…

RAW〜少女のめざめ〜

世界の認知を改めさせられる衝撃の映画体験。フランスより、ギャスパー・ノエ以来の鬼才現る。トビー・フーパーやデヴィッド・クローネンバーグからの影響を血肉とする若き女性監督。女性自身でなければ描き得ない、少女の思春期における変容を剥き出しの生…

アトラクション -制圧-

平和への思いを固く誓いながら、一方でアンビバレントに世界が一変するカタストロフを心待ちにしている自分がいやしないか。隕石雨の一つでも堕ちれば。地球外生命体とのファーストコンタクトや、あるいは宇宙“戦争”なんて勃発してしまえば。町は装甲車が行…

Ink

眠りに見る夢は夢ばかりではなく。現実の裏側にもう一つの世界は広がる。そこでは本来あるべき、もう一人の自分も存在する。 そんな中二病的妄想をあたかも形而上学的なサイエンスフィクションであるかのように仕立て上げる“ストーリーテラー”。その一編によ…

タイムシャッフル

確定された未来に向かって、たとえそこには自由意志がなかろうと、この現在に実感を得ることを生きるとする他ない、むしろ無限に開かれた可能性など自らの想像力の範疇において放棄したがる人間という種が迷い込むタイムパラドックスの袋小路。 時間には逆ら…

LOOP/ループ -時に囚われた男-

この記憶は何者かによって作られた偽の記憶であるという可能性を、一体誰が否定できようか。記憶の連続性が一個人の主体を維持する根拠であるならば、その記憶が改竄されうる代物であったとき、この世界が大いなる存在によって試されるシミュレーションの一…