“男らしさ”、“女らしさ”といった虚栄に費やす人生の憐れ。老いることを劣化するという風潮にせよ、若さを欲する人間の性を嗤うばかりでもなく、シュールな悲喜劇にまとめるフランスらしいエスプリ。 ☆3.1
宗教伝来以前の土着信仰、アニミズムを背景としたオカルトホラー。東洋の『エクソシスト』と例えるにはあまりに禍々しく、カオスに轟く阿鼻叫喚をPOVの臨場感が伝える。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に始まり、『パラノーマル・アクティビティ』、『レ…
ままならない日々の、愛を語らうフランス映画のフランス映画たる所以。多様な愛、家族のかたちを実現しうる社会の基盤を垣間見る。 ☆3.6
マーベルもDCも、トム・クルーズまでもお構いなく、アメリカンヒーローを下ネタとスラップスティックのオンパレードでパロディしまくる下卑た笑いにもかかわらず、そこに愛を感じるフィリップ・ラショーのオタクマインド。『シティーハンター』に続き、山ち…
ネオナチが勝ち名乗りを上げ、ガラスの天井が再び強固に示された2024年11月の悪夢を経ては、初の女性大統領という設定自体もはやフィクションのためのフィクション、現実逃避の絵空事に虚しく思えてならない。いわんや環境問題の解決など風前の灯。このデタ…
人生は何度だってやり直せる。君との出会いが明日を輝かす──なんてシネマティックなロマンティック。映画は夢を語り、現実を忘れさせる。実話を基に、大人のおとぎ話を作り上げる。いくつになっても恋して、オシャレして。ダイアン・キートンは変わらぬチャ…
まごうことなき愛の風景。しかし、やはりと言うべきか、相手の存在に自分の価値を見出す共依存的な“親子”の危うさ、脆さを垣間見る。小津映画の影響を公言する静謐なカメラワークが淡々と映し出す、二人の暮らし。姪と叔父と、その慎ましくも穏やかな生活に…
天涯孤独の少年と用済みの競走馬。その優しさと哀しみの同居する瞳に映る、見渡す限りの“荒野”をあてどなく、帰る場所もなくさまよう旅路の悲劇的な顛末と、その先──。 ちょっと、言葉にならない感動がさざなみのように押し寄せる。きっと、かつて子どもの頃…
在りし未来の喪失。続く後悔と慟哭の日々。それでも生きていかねばならない現実に向かい、壊れかけた心を治癒する家族の愛と他人のもたらす外部性について。ゆっくりと、苦しくも穏やかな日常に訪れるべく再生への契機を、闇に差し込む柔らかな光に描きうる…
未来は過去のつじつま合わせであってはならない。可能性に開かれた今という“2分間”を反証する、少し不思議なSFコメディ。 現在、過去、未来を同時に映すワンカット長回し、しかもスマホ撮影の驚き。タイムループならぬタイムテレビ的なやつ。今作が『リバー…
選ばなかった人生への後悔。そんなことはないと誤魔化し続ける日々の繰り返し。自信がなければ、勇気も出ない。仲間さえいない──今日もまた同じ月曜日が始まる。 ☆3.4
本来的に矛盾を孕んだ人の心。辻褄の合わない人間関係のカオスをたった一つの真実というフィクション、あるいはストーリーに結びつける無理筋。人の数だけ存在する主観と客観の相違を埋めるその暴力性、不可能性を法廷劇に物語る。パルムドール並びにパルム…
アウトバーンの車列。天井高く積み上がった在庫商品。無機質な巨大スーパーの傍らで行き交う人々の、よせてはかえすささやかな日常、その人情の機微に触れる。時代の狭間、社会の片隅に生きる愛おしき隣人たちはロイ・アンダーソンのようであり、無骨で寡黙…
代わり映えしない平和な日常。こんな幸せが一生続けばいいと願うは、ビューティフルドリーマーの仕業。繰り返されるタイムループ。おそらくは映画史上最短、最多記録。いまだこの手があったかと唸らされるジャンル的脱構築。 ねぇ、未来は楽しい? ☆3.8
人生に何度か訪れる「一生これが続けばいいのに」という、何もかもが完璧で、幸福な瞬間。そんな瞬間を社会の片隅、あるいは社会の底辺からも掬い上げるインディーズマインド。オフビートにたゆたう、人間模様の温かさ。 ☆3.3
カンバスを伝う繊細な筆致、カラフルなパレットが表すように──暗闇を灯す柔らかな光に、愛の輪郭をなぞる映画のテクスチャー。命輝くフレームの向こう、その美しい世界の営みを見つめる。 ☆4.0
虐待、ネグレクト、共依存といった現代的な尺度においては批判せざるを得ない関係性を、あろうことか家族の絆に美化してしまう。そんな帰結を許容するのは、『ショート・ターム』に零れ落ちた愛を掬うかのごとく眼差し。児童保護施設とも地続きにあるテーマ…
ケイシー・アフレックのうわずったモノローグの不快。一人称への感情移入を阻む冷たいポーカーフェイス。彼(彼ら)のまるで共感できない狂気の沙汰を、激しく美しく炎の如く燃えさかるラブストーリーへと昇華してしまうまさかのクライマックス。パルプノワ…
魂を覆う闇に光をあてるイリュージョン。映画という物語を携えて生きる者たちへ、フェリーニの至言。 “夢想家だけが唯一のリアリストである” ジェルソミーナに夢見た少女は赴く、永遠の都ローマへの道。愛と混沌の、人生はまるで不思議の国のアリス。 ☆3.3
『her』から『ブレードランナー 2049』まで、“理想の伴侶”を描いた男のそれが悲劇性を帯びた、ある種の独りよがりなナルシシズムに帰結するものであったなら、対して、プリミティブな営みの中にフィジカルな繋がりを求める、女性の視点に立つ本作の、つまり…
そう、悲しみはいつも遅れてやってくる。悲しみが愛の後悔であるならば、きっとそれはこれからもずっと。でもだからこそ、いつまでもあなたを忘れずにいられる。 1993年、夏。スペインはカタルーニャの田舎町より、ある愛のはじまりを記憶する。アナ・トレン…
異様なほど清潔で整然とした古き良きアメリカ的風景。その窒息しそうなほどの家父長的世界観に、今作が『ステップフォード・ワイフ』の現代オマージュであることは容易に察せられる。そして、“ビクトリー計画”なる目論みが、MAGAあるいはQアノン的な幻想に辟…
アメリカ発、シケた田舎町よりオルターナティブを行く、世界中のロックンロールの恋人たちを繋ぐノスタルジックでロマンチックな愛の一編。“音楽”という麻薬的なエクスタシー、あるいは宗教的なまでの奇跡の瞬間を享受しうる感受性、そして人生哲学を問う。 …
師であり、友であり、家族でもあり。あるいは昔見たテレビの中に。ヒーローという存在を知って、憧れによって、はじめて人生という旅に目的とそして自由への道は拓ける。 シャイア・ラブーフとダウン症当事者ザックの“悪玉コンビ”に加え、ダコタ・ジョンソン…
人は死ぬ。いずれ父も、母も。その残酷な真実を、その恐怖や悲しみを知って、僕らは少し大人になった。絶望の涙をおぼえた密やかなイニシエーション。あの夜のできごとを今でも鮮明に思い出す。なんと美しく愛おしい悲劇。トラウマティックな悪夢を癒やし、…
原作への忠実度がうかがわれる、軽快なアクションにイベントシーンの連続。痛覚は消失し、ゴアはコメディとして消費されるビデオゲーム的世界観。ポストアポカリプスのミクスチャーは新たなヴィジョンを映し得ないし、広く統合されるSF的思考は半世紀も前か…
監督のフィルモグラフィーに物語るホラーの変遷。“ゾンビ”、“悪魔”、“怪人”ときて、その対象が今作では暴徒化したアジア人に適用される。搾取、分断、相互不信への悲しいかな大いに共感しうるリアル。時代を映す鏡としてのフィクション。 ☆3.1
スパイダーマンオマージュの主人公をはじめ“個性能力者”たちによる怒涛のバトルアクション、ヒーローとヴィランの鏡像関係にマーベル的なる世界観との相似形を見るも、救うべき多様な世界において“無個性”という名の個性をも含めた救済への、成熟したジャパ…
クリスマスシーズン、予約で満席の人気高級レストランの、その煌びやかな店内の装いに反し、バックヤードの喧騒、崩壊寸前の人間模様を描く。開店15分前から、ある“沸点”を迎えるまでの臨場感にあふれるリアルタイム、驚異の90分ワンカットの長回しはおよそ…
60〜70年代、90年代、10年代に渡る親子三世代、それぞれの若き日の思い出を、風光明媚な田舎町は南仏プロヴァンスの風景に重ねる。そのあたたかな日差し、さわやかな風が肌を撫でる。そして奏でる音楽に体と心を揺らす。過去から未来へ、未来から過去へと繋…