散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

the Future ザ・フューチャー

このまま時間が止まってしまえばいい──そう祈ったあの日、あの夜、あの刹那の感触を、今も確かにこの腕に抱えたまま。かれこれどれほどの夜を過ごしただろう、もう数えることもない。遠い日の記憶、でも思い出すまでもなく今に続く。笑い合い、きっと愛し合…

ALONE アローン

地雷を恐怖のメタファーとして個人の内省を図るには、それ以前に質すべき問いが多すぎる。砂漠に米軍兵士というシチュエーションを観念的に片付けられるはずもなく、とてもじゃないがそんな独りよがりな心象に心を寄せることはできない。 ☆2.8

すべてが変わった日

自衛のための暴力に対して、ほとんど批評的なまなざしを持ち得ない表現と、そのカタルシスの恐ろしさで言えば、例えば『わらの犬』のそれよりも事は深刻なのかもしれない。暴力(についての)映画の現在地。 ☆4.1

友情にSOS

何もしていなくても、ただそこにいるだけで疑いの目を向けられる。常に銃口を突きつけられているかのような恐怖や無力感が、まさかの笑って泣ける学園コメディに同居する。まるでSFの世界にでも迷い込んだかのような世にも奇妙な地獄めぐり、ちょっとくらく…

タイム・チェイサー

あの時もしもこうしていれば──を叶え得るタイムトラベルへの夢想。たった一つの過ちを正すために、すべての今を捨てられるのか。そんなSF的思考実験を繰り返してはいつも、間違いだらけのありうべき人生の必然に迫られる(さもなくば自死を意味する)。この…

ブラッド・パンチ タイムループの呪い

往々にして悲劇的な過去への執着を自己投影し、その未練や後悔の念に拘泥するループものへのフェティッシュ。なのだが、今作はそのような悪夢的ユートピアに非ず。 君と僕との永遠を捨て、永遠の孤独をそれでも生き存えようとする。愛か否か、善か悪かになく…

ゴーストシップ

タイタニック、地獄篇。早速のオープニングシークエンスより、トラウマの如くこびりついた記憶を鮮明に呼び起こす血の惨劇。 また一つ、“忘れようとしても思い出せない映画”をサルベージ 。ERのジュリアナ・マルグリーズ、幼少期のエミリー・ブラウニングを…

ライトハウス

まさか、『ウィッチ』を遥かに凌ぐ狂気の世界。ほぼ正方形の画面サイズに閉塞感を伴って、シンメトリックなモノクロームは漆黒の闇に目の焼けるような光線をちらつかせる。断続的な重低音が打ち寄せる波しぶき、雨風、海鳥の鳴き声と共に禍々しくも甘美なサ…

ブロー・ザ・マン・ダウン~女たちの協定~

自らが生き残るため、そして弱き者を守り抜くために犯す罪の一つや二つ。善悪の彼岸に結ばれる女性たちの“協定”には、むべなるかな女性監督による女性映画におけるフェミニズムの鋭い眼差しが映り込む。その切実で強かな、怒り。 「そいつをブッ飛ばせ」男た…

ザ・バトル ネイビーシールズVSミュータント

ランボー in ヒルビリーホラー的な。格闘アクションもスプラッターも非常に好感の持てる、ごった煮ジャンルムービー。まったくバカにできないバカ映画の良作。 売れっ子俳優の無名時代を遡って、思わぬ鉱脈を探り当てる。現状、特に他には手掛かりもなく彷徨…

観察者

深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだというあれ。 愚かさを選ぶ自由とその代償について。窃視の欲望に呑み込まれていく女の主人公像に現代性を見ては、男のそれよりも遥かに生々しいサスペンスの行方を悶々とただ傍観するばかり。 言わずもが…

プラットフォーム

『スノーピアサー』を縦にしたような“明らかな”格差社会のメタファーも、その閉塞感に絶望感も段違いのシチュエーションスリラー。自力で這い上がれない階層は、その固定化、つまりは自助を促す新自由主義の搾取構造を如実に表し、その不可能性、近景ではト…

バクラウ 地図から消された村

これまた分断の時代を象徴する映画がブラジルからも。ボルソナロ政権にしてさもありなん。ただし対岸の火事とも言ってられないのは、彼らの告発、抵抗への意志がグローバル社会における先進国の傲慢、その横暴により憎悪と相互不信の極まった近未来像にまで…

ワンダー 君は太陽

正しさよりも優しさを。優しくあるための強さを。 知恵とユーモアと、想像力とで持ちえる愛のまなざし。見方一つで世界は変わる。未来は僕らの心の中にある。だから大いに理想を語り、映画はハッピーエンドを迎えるのである。 それは偽善でも、きれい事でも…

トゥループ・ゼロ~夜空に恋したガールスカウト~

たった一つの「好き」への信念が、揺るぎない自己肯定を支え、たゆまぬ自己変革の指針ともなりうる。私をつくる。誰のものでもない、私自身の人生を生きる。自分“らしく”あることの気高さを謳うジュブナイル。 人と違うことのかっこよさを問うた、デヴィッド…

コピーキャット

映画が時代を映す鏡である以上、『羊たちの沈黙』にはじまる90年代サイコスリラーの隆盛も、そのジャンル的枠組みを超えて、当時の社会不安や犯罪史からの影響を無視することはできない。現に、シリアルキラーは実在するのだから。当然のように今も、いつの…

オールド

老いへの恐怖、しかしその先に愛と赦しの境地を見出すヒューマンドラマ。 人間の一生、あるいは人生の縮図をたった二時間の奇観に映し得る映画という聖なるもの、そのストーリーテリングについての自己言及的な寓話。第二次黄金期を迎えても、やはりシャマラ…

アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲

ナチスというわかりやすい悪を引用する風刺コメディは、陰謀論やテクノロジーへの依存という現代人の新たな“宗教心”へとその射程を伸ばし、これも全体主義的な人間の退廃と茶化し倒す。そして「鎌と槌」は再び姿を現す。優れた表現の辿る運命か、数年先の時…

ナイト&デイ

稀代のアクションスターとロマコメ女王の最強タッグ。トム・クルーズがトム・クルーズを、キャメロン・ディアスがキャメロン・ディアスを演じているかのようなメタ構造も併せて、それぞれの最高峰がそのジャンルごと一本の映画にひしめき合う豪華版。往年の…

ガンズ・アキンボ

驚嘆すべき90分一本勝負。テンションメーター振り切れっぱなし、アドレナリン大放出のノンストップガンアクション。所謂、スタイリッシュなカメラワークが全編にわたり功を奏し、ビデオゲーム的想像力が映画的スケールの快楽に結び付いた稀有な一例ではない…

スカイライン −逆襲−

『インデペンデンス・デイ』がやりたくて『エイリアン』がやりたくて『スターシップ・トゥルーパーズ』もやりたくて、本当は『スター・ウォーズ』もやりたかったけど予算の都合上ボイスオーバーで……と、第一作のようなソリッドなアイデアは消失し、かといっ…

明日への地図を探して

すべてを得ては、すべてを失う。それが人生の定めならば、こんな日々の繰り返しに何の価値があるというのか。どうせ失くしてしまうものなんてもう何も欲しくない。いっそ、このまま時間が止まってしまえばいいとさえ思う。 時はひたすらにタイムリミットを刻…

ザ・スイッチ

巨漢の殺人鬼とひ弱な女子高生のボディスワップを、単なるギャグに終わらせるのではなく、より現代的なエンパワーメントを併せ持った物語へと昇華させる確かな視座。『ハッピー・デス・デイ』シリーズに続き、ホラーとコメディのジャンルミックスはお手の物…