散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ブータン 山の教室

『ミツバチのささやき』のアナ・トレントを彷彿とする、純真無垢なダイヤの原石。きっと誰もが目を奪われる、ヒマラヤ山脈の秘境に暮らす9歳の少女、ペム・ザムとの出会いが本作の成功を約束する。 “世界で一番幸せな国”にもグローバリズムの波は押し寄せる…

アメリカン・レポーター

米軍撤退によるタリバン復権以降、2023年現在、アフガニスタンの女性たちが強いられる抑圧状況を鑑みるに、(たとえ2016年の作品だとしても)今作における、いかにも“アメリカ白人女性”的な自己実現の葛藤など、あまりに瑣末。無責任で欺瞞的な戦争当事国と…

ホテル・ムンバイ

搾取構造を温存し、貧富の差を拡大させておきながら、人々を不用意に近づけすぎたグローバリズムの歪みが局所に噴出する。 立ち並ぶ高層ビル群を傍目に、ゴミだらけの岸辺へゴムボートで乗りつける若者たちが向かった先は、『スラムドッグ$ミリオネア』でフ…

めぐり逢わせのお弁当

間違った列車に乗っても正しい場所にはたどり着くか──。 著しい経済発展を遂げるインドは大都市ムンバイの今を、名目上では計れない市井の生活に寄り添った繊細なまなざしによって切り取る、非ボリウッド製の人間ドラマ。社会通念を反映してか、不倫に対する…

クジラの島の少女

切れたロープを結び直す少女。“運命”に逆らい、滅びゆくマオリの伝統を受け継ぐ少女とクジラ伝説の神秘。 島を愛し、家族を愛し、凛々しくたくましく生きるヒロインのまっすぐな眼差し。その純粋な瞳から零れ落ちる涙の美しさは、たしかにアカデミー賞ものの…

RUN/ラン

RUNを「走れ」ではなく「逃げろ」と翻訳すべく時代のジャンル映画。近年のフェミニズムホラーにも通底する抑圧的な世界観──強権的な支配からの“自立”を勝ち取るべく戦いはなにも、有害な男性性からの解放を謳う女性の物語ばかりではない。その不等な搾取構造…

シャドウ・イン・クラウド

狭い爆撃機の銃座に閉じ込められたクロエ・グレース・モレッツの一人芝居、ゲス男どものハラスメントをひたすらに耐え凌ぐ前半部を経て、怒りのヒットガール降臨。そんなまさか、荒唐無稽な痛快アクションの連続に、有害なホモソーシャルを蹴散らし、ころが…

恐竜が教えてくれたこと

悪い夢でも見たのか、急に世界に独りぼっちな気がして、両親の腕の中で泣いた夜のこと。ふと死の概念を理解してしまい、大好きなあの人もこの人ともいずれお別れしなければならない運命を知った、幼すぎた愛の“記憶”。それ以来の恐怖にそして悲しみを、僕は…

デス・バレット

髑髏、炎、銃口、そして顔、顔、顔への極端なクローズアップ。傾いたカメラに、やたらにカットを刻む“スタイリッシュ”な画作りは、全編キメキメのショットが連続する実験映画的オナニズム。フレンチウエスタンを下敷きに、露悪的なエログロ表現も抜かりなく…

心と体と

障害の字をひらがなにしたり、特性と言い換えたりしたところで、彼らを包摂した社会の実現には程遠く。普通という名の同調圧力に阻害され、押し潰される心の痛みは計り知れず。わかったつもりにもなれないほどのディスコミュニケーションが横たわる。愛とい…

レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星 シーズン1

アンドロイドを介し、むしろ自由意志を持たないはずのアンドロイドにこそ感情移入して、“ヒューマン・ビーイング”を探求するスペキュレイティブ・フィクション。人類(カルト)vs.アンドロイド(無神論)の皮肉めいた構図に、先住するエイリアンとその造形を…