散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星

『フレンチアルプスで起きたこと』や、ゴダールの『軽蔑』や。 それは前兆なく訪れる悲劇。少なくとも男にとっては。常に試され続けていることに気付きもしない男たちにとって、その変心はまるでホラー。 見渡す限りにそびえ立つ山々が、愛の不毛を見下ろし…

スケア・キャンペーン

嘘のつもりが本当で、やっぱり嘘だけど、本当でした。誰かと思えば、『ヴィジット』のお姉ちゃんでした。 モキュメンタリー、ドキュメンタリー。 リアルがあると思うから、ヤラセなどと吹き上がる。誰もがカメラを携帯する時代、大いなる幻想も機能しなけれ…

ハートストーン

心温まるオフビートな北欧映画にここではないどこかの桃源郷を夢見る節はあるけれど、今回のアイスランド映画はそうはいかない。美しく雄大な自然を背景に描き込まれるリアリズムの筆致は、こちら遠い島国の地方都市にも通ずる痛切な思春期の手触りを思い出…

ありがとう、トニ・エルドマン

人生という悲喜劇を。笑って、歌って、時には人知れず涙を零すこともあるだろう、誰のでもない自分の人生を生きていられますように。 非人間的なシステムの構成員を、演じていたつもりが成り代わっていたということのないように。気がつく間も無く、“大人”の…

アトミック・ブロンド

冒頭から「ブルーマンデー」のビートに心を掴まれ、クールな青の照明に鍛え上げられた背筋が露わに浮かび上がるバックショットでもうヤラれる。文字通り、背中で語る術を体得するシャーリーズ・セロン。彼女に体現される新たな女性像は、昨今のハリウッドに…

バーチャル・レボリューション

曰く、“ブレードランナー 2047”(by 高橋ヨシキ)。 星の数ほど存在する『ブレードランナー』のヘタな模造品の一つに過ぎないが、その世界観への健気な“アコガレ”と“がんばり”には可愛げさえ感じさせる、たしかに特筆に値する出来栄え。概して言えば『マトリ…

セールスマン

おそらく観客の多くは、事件の詳細を誤解したまま犯人の弁明を疑って聞く。それは被害者を取り巻く社会と観客がそれぞれに知る社会との、ギャップに生じる誤解だろう。 とはいえ、恥の文化では共通する日本という国から本作を見れば、登場人物たちの疑心と嫌…

恋するパリのランデヴー

かつては、「君の瞳に乾杯」なんて秀逸な翻訳もありもした。それでも言い尽くされることはない、雷に打たれたかのようなあの衝動について、相応しい言葉を、メロディーを、芸術の中に探し続ける人々のランデヴー。 愛と芸術の国フランス流のロマコメ。であれ…

あなたとのキスまでの距離

『今日、キミに会えたら』のラストシーンを想起しながら──交わらない視線よりも雄弁で、悲痛な、見つめ合う二人の恋の終わりに息を呑む。 過去と現在、理想と現実の間を振り子のように思い巡らす人々の葛藤を映し出す、ドレイク・ドレマスのやはり巧みなカメ…

愛と死の間で

彼女の名は。 運命だとか未来とかって言葉がどれだけ手を伸ばそうと届かない場所で恋をする彼ら──。 死さえ分かつことはできない愛と憎の間で。 ☆3.6

ジュラシック・ワールド 炎の王国

ハモンドの夢──スピルバーグからの贈り物を受け取って育った僕たちのノスタルジーが焼き払われる問題作。ブラキオサウルスの巨体を眼前にしようとも、T-REXの咆哮が鼓膜を揺らそうとも、それだけで感動を得られることができたのも今は昔。恐竜の再誕にロマン…

ロスト・メモリー

お揃いのワンピースとカーディガンを羽織って、全身を白でまとった純真無垢 、汚れなき少女たちの天使のような微笑み。その裏に隠された残酷の扉が開かれるとき、犠牲者の悲しき愛は憎しみを刻み、その傷に永遠の契りは交わされる。 過去は忘れようとも追い…

ハンナ ~殺人兵器になった少女~

映画版のシアーシャ・ローナンと比較しても遜色ないばかりか、無垢に潜んだ動物的な凶暴性を有しては、オリジナルより新たなヒロイン像を演じてみせる──今作のハンナは、瓜二つ、サマンサ・モートンの実娘だそうだ。 「殺人兵器」というアレゴリーが成立しう…

羅生門

土砂降りの雨音に交じって響き渡るけたたましい高笑いの正体は、鬼でもなければ悪魔でもない、他ならぬ人間様の本性に違いない。 人という人を、己の心すらも信じられないこの世の地獄。 誰もが嘘をついているとして、どれもすべてが真実であり得るという。…

キャビン・イン・ザ・ウッズ

ホラーとロマンスの怪奇な融合が、まごうことなき愛の物語に結実する快作『モンスター 変身する美女』の監督コンビ。彼らの長編デビュー作のようだ。 これまたジャンルレスな、予定調和を崩した語り口が心地いい。その構造は物語についてのメタ的な物語の真…

フィフス・ウェイブ

これは『インデペンデンス・デイ』……もしや『宇宙戦争』……さらにはボディ・スナッチャーもの……といったジャンルムービー的なモチーフは流用するだけ。本筋は『ハンガー・ゲーム』や『メイズ・ランナー』と同じく、ヤングアダルト系の王道をこれまたまったく…

ブレインスキャン

ホラー映画の誘惑。 秘めたる残虐性を虚構の“殺人ゲーム”に仮託し、悪魔の囁きに耳を貸す休日の午後。 夢と認識できない夢ならば、現実と何が違うと言うものか。恐怖を見せる疑似体験であっても、その感情は本物である。 ☆3.2

FRANK ーフランクー

誰のためでもなく、自分たちのために鳴らし続ける音楽。どこまでも続く孤独の地平に、各々の抱える絶望を轟音に溶け合わせるバンドサウンド。 そこは特段、音楽の才能なんていらなかった場所。求められるは愛の才能とも言うべき感性──人として、より核心的な…

マッドボンバー

人が先天的に持ちうる獣性。人間社会で後天的に患う狂気。“ケダモノ”たちが憎しみと憎しみをぶちまけ合いながら滅んでいくさま。唐突なグロのラストシーンから物悲しいエンディングに震える。 『フォーリング・ダウン』のように笑って見ていられないのは、し…

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

『大統領の陰謀』へ続く……アメリカ現代史の1ページ。またしても巨匠スティーヴン・スピルバーグは史実を映画史に記録する。緊急的に製作された今作。トム・ハンクスとメリル・ストリープという二大巨塔を擁し、ハリウッドのメインストリームのど真ん中から現…

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男

『ダンケルク』とあわせて見たい世界史。映画史によって多層的に捉え直す史実に、故きを温ね新しきを知ろうとする文化の豊かさに触れる。 “暗黒”の夜明け前、常に光が差し込む光と陰のコントラストは美しい。画面は美しく、勇ましいチャーチルの名演説は見る…