散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

セールスマン

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おそらく観客の多くは、事件の詳細を誤解したまま犯人の弁明を疑って聞く。
それは被害者を取り巻く社会と観客がそれぞれに知る社会との、ギャップに生じる誤解だろう。

とはいえ、恥の文化では共通する日本という国から本作を見れば、登場人物たちの疑心と嫌悪、そしてマチズモの脆さなんてものは、肌感覚におぼえのある風景ではないだろうか。

ある夫婦のコミュニケーションの問題にしてしまうのは簡単。対岸の出来事と傍観者を決め込むのはあまりにも無知。民族、国家、宗教を問わず、世界中のどこでも誰にでも起こりうる悲劇について──尊厳を揺るがせる“暴力性”が分断を生む物語である。

外面的には急速な変化を見せる社会情勢にあっても、保守的な価値観は根深く残存しているもの。どれだけ世界が均質化しようとも、あるいはそうあるがゆえに、復讐心に駆られる登場人物の言動もまた普遍的な“暴力性”として露呈するのだ。


☆4.4