散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

さよなら、僕のマンハッタン

「最良の者が信念を失い、最悪の者が活気づく」とは詩人イェーツが綴り、今は無きボトムラインのステージにてルー・リードが引用した言葉。 雨の街角に男と女と愛の言葉が行き交う夜。音楽は鳴り続け、踊り続ければ愛し合うロマンティックの住人たちの物語で…

隣人は静かに笑う

時に誤ちを振り返り、醜い世界に目を濁らせては、小さな絶望を繰り返しながら、ささやかな幸せを見つけては拾い集める──生きるとは、それ以上でも以下でもない、そう静かに笑ってやり過ごす日々の延長なのだ。 そんな日常の風景が、“天命”やらと、命の価値を…

ミッション:インポッシブル/フォールアウト

トム・クルーズのスタントが人間離れしていくのと反比例するかのように、齢を重ね、イーサン・ハントというキャラクターは人間味を増していく。 (『ゴースト・プロトコル』以降)チームあっての“スパイ大作戦”という原点に立ち返ってからというもの、傑作続…

ブリザード 凍える秘密

享楽のダンスフロアに明滅するライティング、不似合いなルージュのワインレッド。欲求不満の少女たちの“テンプテーション”が閑静な郊外の町を彩る。 良妻賢母を演じ、あるいは虚飾を着飾ることでしか生きられなかった時代の。吹雪をさまよう幽霊のような、暗…

ザ・モンスター

大嫌い、大嫌い、大嫌い……そういくら唱えたところで憎めっこない。罵り合った後は一人、秘密の部屋で涙をこぼす。煩わしいほどに愛おしい、母と子の切っても切れない関係性。その宿命とも言うべき愛に煩い、眠れぬ夜がまたやってくる。 闇の深い夜と、黒に染…

哭声 コクソン

韓国映画お得意の、あの本当に嫌な手触りのするクライム・サスペンスがまた始まったかと思えば、ゾンビは出てくるわ、エクソシスト的展開を見せるわで、気がつけば予測不能のカオスに飲み込まれてしまっている。超常的なホラーの様相を呈する。 しかしホラー…

50回目のファースト・キス

月曜日がブルーでも火曜日と水曜日が灰色でも木曜日には挫けそうになっても……金曜日、僕は恋をしているのさ! "Friday I'm In Love" 恋はデジャブ──日々、恋し、恋されることの繰り返しに、きっと忘れることのない愛は刻まれるのだから。 きみに読む物語──に…

いぬやしき

心優しき殺人鬼の感傷に触れ、一方、ヒーローの愛が世界を救う。そんな風に衆愚なワイドショー化の図式で、正義と悪にレッテルを貼り分ける駄作。映画化にあたりスポイルされてしまった、原罪的な実存の問い──。 善も悪に同じ、自らの存在価値を実感しようと…

殺意の夏

南仏の田舎町。澄み渡る空に断末魔の叫び、その残響がこだまする。 生まれながらの原罪を背負った少女の復讐の戯曲──。 道行く誰もが振り返り、彼女の後ろ姿に見惚れる。誰も彼も彼女に夢中、夢の中。まるで映画のようにと──腑抜けな男どもを誘惑し、弄ぶ小…

アメリカン・ゴッズ シーズン2

古き神は廃れ、人々は新たな神を生み出したか、あるいは自らが成り代わろうとする──新旧の神々と人間との三つ巴にあるニューエラ。 アメリカ史から全人類史を射程に戯画化しようとする豪快な筆致はさすがの映像美の洪水であるが、皮肉にも、しばしストーリー…

赤ちゃんよ永遠に

遡ること10年か、それ以上。映画にハマり、まずはカルト映画と名のつくものをひたすらに漁っていた頃から。見たい映画リストの1ページ目に記されながらチェックされることのなかった本作を、ついに某所で発掘……! 70年代SFの近未来ディストピア観。自然破壊…

ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界

閉塞感とて美しく──。迫る、核戦争。世界の終わりとあらば、持てるすべての麗句を並べて。 気まぐれな風に髪なびかせて。ロンドンの青白い空気に、赤毛の揺らめくエル・ファニングの等身大を煌めかせる。描画される光と画角の妙はポエティックに、既に過ぎ去…