散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

殺意の夏

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南仏の田舎町。澄み渡る空に断末魔の叫び、その残響がこだまする。

生まれながらの原罪を背負った少女の復讐の戯曲──。

道行く誰もが振り返り、彼女の後ろ姿に見惚れる。誰も彼も彼女に夢中、夢の中。まるで映画のようにと──腑抜けな男どもを誘惑し、弄ぶ小悪魔な美女。
しかしカメラのこちら側で我々観客は彼女の素顔を見つめられる。その目が悲しみに満ちていることを。目を細める仕草にはイノセンスすらのぞかせる、あどけない少女の、途方もない悲しみと怨念に呪われた偽りの姿であることを。

わけもなく、子どものように泣きじゃくる彼女だけが本当だったのに。

愛はいつも遅れてやってくる。


☆4.3