散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

告発の行方

加害者は前途ある若者(Promising Young Man)と護られ、被害者は立証の困難に加え、あろうことか二次被害の危険に晒される。弱者に泣き寝入りを強いる制度の不備、並びに風土が30年余りの歳月を費やしながらほとんど改善されてこなかった事実に愕然とする。…

タイムリミット 見知らぬ影

映画を好きになり始めた頃、こうしたジャンルものへの嗜好を決定づけた思い出の作品『フォーン・ブース』を想起するほどの緊張と興奮。ワンシチュエーション、ノンストップスリラーの極上を再びうん十年ぶりに味わえる喜び。 『カット/オフ』クリスティアン…

ANNA/アナ

リュック・ベッソンの描く“闘うヒロイン”をフェミニズムの延長線上に称えるか、性消費的なドール趣味の亜種だと戒めとすべきかは非常に微妙なところであるが、個人的には後者の立場を取らざるを得ない。その上で、そうしたフェティッシュの発露も表現の内に…

エリザのために

『4ヶ月、3週と2日』のクリスティアン・ムンジウによるルーマニア映画。揺れる手持ちカメラが父の薄汚れた背中越しに社会の腐敗、人心の荒廃を映す。公正を求め不正を働き、尊厳をも捨て去る信念とはいかに。娘のためにと、親の使命かのごとく裏工作に幾分ヒ…

ブリス ~たどり着く世界~

この世界はすべて誰か何かのシミュレーションに過ぎないという形而上学的思考への第一歩を、そのまま映画にしたような幼稚な世界観にはたやすく同調してしまえる一方で、それは現実逃避の産物であるという客観視点を同時に持ち合わせていなければならない。…

ヴァイラル

戒厳令下の失われし青春。恋する季節を奪い去る脅威、それがウイルスであろうと戦争であろうとも、決して荒唐無稽な作り話でないことを僕らはすでに知ってしまっている。 学園ものより日常を脅かす(ゾンビ)ホラーに、リアリティーを覚える現実社会の非日常…

アオラレ

他人に敬意を払えないバカと自分の不幸に他人を巻き込むクズの諍いだと、傍観者を決め込むわけにもいかない世知辛さ。『フォーリング・ダウン』のような、どこか一理ある微かな共感性を持ちえる暴力衝動とは違い、もはや狂人、失うもののない“無敵の人”の暴…

モンスターハンター

モンスターハンターって、焚き木で肉焼いてチルってるソロキャンプ的なイメージしかなかったから、まさかこんなグログロなサバイバルホラーに誘い込まれるとはつゆ知らず。蜘蛛の巣窟にエイリアンを彷彿とするなど、特に第一部、怒涛の展開に面食らう嬉しい…

スケアクロウ

道化のように、または案山子のようだとひたすらに戯けてみせる、人生の苦難をユーモアで乗り越えようとする男の悲哀と、その末路に打ちひしがれる思い。愚かな敗残者たちを見つめる寛容さがゆえに、尚のこと救われない。まさしくニューシネマ的なアンハッピ…

映画に愛をこめて アメリカの夜

映画愛に溢れる。あるいはそれ以上の喜びを映画づくりの狂騒に味わう。至上の映画音楽と言って差し支えない、ジョルジュ・ドルリューの Grand Choral《大合唱》は高らかに鳴り響く──祭りのあと、映画産業の斜陽を滲ませて散会する切なさと共に。なんとも美し…

ストーリー・オブ・ラブ

ラブストーリー、否、愛についての物語。または愛と生活、その始まりと終わり、あの頃と現在、つまりはあなたと私の“最高”と“最低”を語りうる倦怠期ものにはえてして、詩情豊かなサウンドトラックが添えられる。映画と音楽、人生とその不可分。エリック・ク…

きっと忘れない

学校では教わらないこと、父にも教えてもらえなかったことを、映画のおじさんに訊く。映画がなければ自由や正義なんて言葉の意味も、きっと愛や反骨のまなざしさえも知らないまま、その喜びもそれ以上の悲しみならば、やはり知らなくていいことは知らないま…

ディープ・ブルー

おそらくは『ジョーズ』に次ぐポピュラリティを得たサメ映画の名作。いつかの午後のロードショーで見た記憶。だが、大味な90年代アクションも当時はそれで良かったが、色々と考えざるを得ない現代の倫理観に照らし合わせてしまっては、正義と悪の転倒を免れ…

あなたの名前を呼べたなら

身分違いの恋、メロドラマの定型にもかかわらず、何も起こらない、起こってはいけないし起こり得ないことを強調するかのようなドラマチックを排した淡々とした語り口に、この恋に立ちはだかるあまりに高い壁を思い知らされる。聖人のように理解ある男性主人…

ホーンテッド・サイト

“悲劇に始まり悲劇に終わる”『ポゼッション』みたいなラストカットは美しかった。 オカルトなのに血の赤がおどろおどろしいのは、『ソウ』の続編シリーズ監督らしさか。ただもっとお化け屋敷してくれないと、待ち時間75分の元は取れた気がしない。 ☆2.8

或る夜の出来事

ワイルダーに続きキャプラにも撃沈。ハリウッド黄金期の名作群とはことごとく縁がない。ヨーロッパ派を気取ったスノビズムだとか、スタジオシステム崩壊後のニューシネマが性に合ってるとしても、やはり王道の良さをわからずして何がフリークだという寂しさ…

7500

ほぼ旅客機のコックピット内に貫徹するワンシチュエーションもの。脚本、演出ともに背景を削ぎ落としたリアルタイムの臨場感は、扉を隔てて一人、迫真の演技を続けるジョセフ・ゴードン=レヴィットと同調するように心拍数を乱高下させる。またテロリストとい…

アリスの恋

女性に抑圧的な社会を物語る裏返しに、男たちにかけられた呪いの一端が浮かび上がる。ウーマンリブ及びそれ以降の解放運動が目指すべくは、誰もが自分らしく生きられる社会の実現であって、誰もが当事者性を持ちうる課題にして救済でもあるはず。 中性的な美…

パニック・フライト

レイチェル・マクアダムスvs. キリアン・マーフィ、85分一本勝負。ウェス・クレイヴン監督作にしてこのランニングタイム。ほどよいスリルと興奮が、これまたちょうどいい感動の余韻を残すサスペンス・アクションの小品。そうそう、こういうのでいいんだよ!…

ブリット

スタイリッシュなタイトルバックから、ニューシネマ的なエンディングに至る隅々にまで行き届いた男の美学に酔いしれる。わかるヤツにはわかる、心理描写で繋ぐドキュメンタリータッチに、ガンアクション、カーアクションの映像的快楽がリアリズムの先進で響…

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命

ジェシカ・チャステインの静かなる熱演、涙の雄弁。 忘れないために、そのためには知ることから始めなければならない。いまだ毎年のように新作が、過去を遡れば見切れないほどの名作、凡作を含めたありとあらゆる戦争映画、すなわち反戦映画が存在する意義深…

ウェディング・シンガー

80年代ジュークボックスのノリにやや上っ面な節操のなさを覚えつつも(それこそが80'sカルチャーだとするならば良し)、『50回目のファースト・キス』のアダム・サンドラー×ドリュー・バリモアの若かりし頃、初共演からすでに仲睦まじく、とびきりキュートな…

地球最後の日

科学者の警鐘をうやむやにかわしながら、ただ闇雲に問題を先送りする。不都合な真実には聞く耳を持たず、見たいものだけを見る人間の堕落。昔も今も変わらぬ風景に、滅亡へのカウントダウンは止まず。 ☆2.5

タイム・アフター・タイム

H・G・ウェルズ、切り裂きジャックという登場人物の名に負うSFスリラーはお題目に過ぎず、その実19世紀の英国紳士が現代のサンフランシスコをさまようカルチャーギャップコメディもの。そして共演を機に結ばれるマルコム・マクダウェル(『時計じかけのオレ…

フレンジー

見せずとも演出されるこの悍ましさ、見えずとも正視に耐えないサスペンスが繰り広げられる。ややもすれば笑いさえ誘う軽妙な語り口に、すっと時間が止まるようにして挿し込まれる凶行の静けさは、猟奇殺人犯の二面性と重なり合い一層の恐怖を掻き立てる。 映…

シモーヌ

アンドリュー・ニコルらしからぬコメディタッチに皮肉めいた風刺劇も、フィルモグラフィーを辿れば、脚本作『トゥルーマン・ショー』を反転させるようにして、人々の欲望を纏うばかりの虚像についてのシミュレーションを重ねたものとわかる。 モーションキャ…

YUMMY ヤミー

ヒロインの“自然”の美しさに釘付けとなる男の性。彼女にとってはコンプレックスも、僕らにとってはチャームポイントと、ゲスな視線を隠しきれないベルギー産ゾンビコメディのスマッシュヒット。多彩なゴア描写、ジャンル映画黎明期を思わせるエンディングの…