散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

エリザのために

4ヶ月、3週と2日』のクリスティアン・ムンジウによるルーマニア映画

揺れる手持ちカメラが父の薄汚れた背中越しに社会の腐敗、人心の荒廃を映す。公正を求め不正を働き、尊厳をも捨て去る信念とはいかに。娘のためにと、親の使命かのごとく裏工作に幾分ヒロイックにも奔走する男の姿には、父権的な政治体制に染み付いた悪しき因習の名残、その病巣が立ち上がる。“助け合い”とは、いかにもホモソーシャルで自己保身的な物言い。そんな夫に軽蔑のまなざしを向ける妻。石を投げる子どもたち。希望があるとすればそれは新世代の台頭というより、父性の緩やかな失墜だろう。革命なき社会構造の変容につき、いつか時間が解決してくれるのを待つ以外に術はない。諦観に生きている。


☆4.1