海外ドラマ雑感
原作への忠実度がうかがわれる、軽快なアクションにイベントシーンの連続。痛覚は消失し、ゴアはコメディとして消費されるビデオゲーム的世界観。ポストアポカリプスのミクスチャーは新たなヴィジョンを映し得ないし、広く統合されるSF的思考は半世紀も前か…
「記憶を失っても、強い感情は忘れません」 それは、きっと愛。その一瞬の情動が僕が僕であることを、そして僕の今日を明日へと繋げる光となる。 ★4.5
ドラッグ、売春、少女の変死体に日記と、まるでツインピークスを想起する長閑な田舎町にうごめく欲望と罪の正体。そこはさすがのHBO製作、そして『コンプライアンス』、『ザ・ハント』のクレイグ・ゾベル。愛ゆえの過ち。愛と正しさの相克を描く重厚な人間ド…
記号的な悪には断罪しない、恐ろしい愚かしさと反面に、極めて人間的な野心とタフネスを備えた父性の晩年を描き切る。一方で残された青二才たちの狼狽。愛とエゴの狭間で二転三転する、やはり人間らしい軽薄な信頼と裏切りに次ぐ裏切りの連続に、王亡き帝国…
人間とは政治的存在である──アリストテレス すべてはゲームに過ぎないこの世の虚無主義に抗うべく物語、エディプスコンプレックス。父の寵愛を巡り、ひたすらにむきだしの自己愛が交錯する。 ★4.0
「バラのつぼみ」 モデルとされるルパード・マードック及びFOX社への風刺的側面を色濃くするシーズン2。マフィアとも同義語の“ファミリー”の存亡をかけた闘い。 ★4.0
「ビジネスこそセックスである」富と地位と名誉と、そのパワーゲームの快楽すらを欲しいままにする大資本家一族の骨肉の争い、あるいは没落をゴシップに見つめる庶民、最上の娯楽。 ★4.0
ミカサとユミル。まごうことなき愛と憎しみの戦争。愛ゆえの憎しみに勝るさらなる愛の温もりを知るまで。救済に導く自己犠牲的なその、壮大なラブストーリーの一編であった。 正直なところ、期待していたようなカタルシスではなかった。でも、だからこそのエ…
アンドロイドを介し、むしろ自由意志を持たないはずのアンドロイドにこそ感情移入して、“ヒューマン・ビーイング”を探求するスペキュレイティブ・フィクション。人類(カルト)vs.アンドロイド(無神論)の皮肉めいた構図に、先住するエイリアンとその造形を…
生きることに絶望した男が最後の希望を少女に託す、そんな紋切り型のロードムービーがポストアポカリプスのまさしく世界の終わりの風景と重なり、ゲーム原作とは思えないほど深遠でそして多様な人間模様を紡ぎ出す。 いずれ終わる、意味もない。それでも進み…
ありがとう、ごめん、いいねがもうしつこくて、必要以上の優しさが野暮で、でもそこから始めなくちゃいけないくらいに脆く、壊れてしまった現代を生き抜く戦士たちのしばしの休息。こんなことがあったらいいな、こうであったらいいのになという願いに救済を…
“で”いいじゃなくて“が”いい。うまそうより、うめぇ!と言える人生への当事者性を示すべく、小ネタや再現にハスることなく、その愛やリスペクトを情熱に伝播する一球入魂。ファンムービーかくあるべし。 ★4.0
ウィリアム・キブスンの原作より、ヴィンチェンゾ・ナタリ×クロエ・グレース・モレッツのSFドラマシリーズ。テクニカルターム連発で難解げなハードSFの大風呂敷を広げるだけ広げてシーズンをまたぐアマゾンスタジオクオリティ。らしい、嫌らしい映像表現は影…
セックスとバイオレンスと裏切りに次ぐ裏切りの超展開でドラマツルギーの定石を逆手に取る奇策の繰り返しになく、“血筋”の物語を色濃くする重厚な群像劇がお世辞にも大団円とは言い難かった前シリーズ終盤の消化不良を補って余りある前日譚、来たる戦乱前夜…
富める者たちのユートピア、とはつまりその他大勢の人々に訪れる近未来ディストピア。保守派が革命を企てるねじれは、現代の世相ともすでに重なるアメリカドラマのリアリズム。 ★3.5
失ったものを見つめて生きるにはこれからの人生、長すぎるよ。 悲しみに打ちひしがれ、呆然と立ち尽くし、しかし失った過去と残された未来との圧倒的な非対称性に、たとえゾンビのようでも生きながらえてしまう私たちのどうしようもなく続いていく平和な日常…
人に出会い、人に傷つき、誰もが通りすがりの日々を独り生きていかねばならない恐怖と不安。永遠の孤独を知っていくばかりの旅路にあって、それでも「生まれてきてよかった」と。心からそう思えるような幸せなときが、数多忘れられない悲しみの向こうにこそ…
崇高なる目的のためならば倫理を犯しうる科学者のエゴ。または、その他すべての世界を犠牲にしてまでも守られるべきただ一つの愛。 ★3.0
いつか訪れる、別れの朝に。「ごめんなさい」と、それ以上の「ありがとう」を伝えられるように。悲しくとも、虚しくとも、意味などないこの世界の今と向き合い生きていくのみ。 ★3.5
シーズンを通し、一つ、また一つと提示される妄想科学と陰謀論の親和性。「もう一つの世界」を描くサイエンスフィクションの壮大なる序章。 JJ印のレンズフレアが光る。 ★3.0
人間のフリをして生きる“怪物”の孤独、愛への渇望と密かな共鳴を、マイアミは陽光、ネオンの輝くラティーノカルチャーの喧騒の中に描く。あるシリアルキラーの独白。 ★3.0
「長き夜」の歴史的映像体験。そして、かくも純粋な正義の危うさを突きつける、これも『ゲーム・オブ・スローンズ』のクライマックスに相応しいだろう、悲愴なる玉座の行方。 英雄なき戦場、勝者なき戦争の凄惨なる終幕を見る。 あるいは裏切りと復讐が「信…
裏切りと復讐の魑魅魍魎にも終局は訪れ、やはり正義と悪に二分される勢力図には予定調和を感じつつも、しかし血と炎と灰と咆哮のスペクタクルに感嘆せざるを得ない。大風呂敷を畳んでいく難しさ、物語が閉じていく物悲しさの一方で、圧倒的なカタルシスを呼…
好きだから一緒にいたいうぶな純情と、好きだからこそ離れなければならない、自立しなければ生きていけない現実との狭間に、二人の永遠は引き裂かれる。 それはきっと誰もが遠き日に思い描いた「夢」の終わり。誰もが“普通”じゃない、けれども普遍の恋の喜び…
「何もできなかった」という無力感と、幾ばくかの疎外感。だから「誰かの役に立ちたい」と願うばかりの“きれいごと”をそれでも生きる他ない若者たち。自分の幸せを生きられない、そんな贖罪の人生を救うドラマとしてこれ以上ないほどの共感を日々数えた。『…
『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018)と共通するような、オタクカルチャーとオカルトの甘美な結びつきに無邪気でいられたのも今は昔。 図らずも、陰謀論と疫病が蔓延する現実が、まるでそのままの虚構を追い越してしまった時代の不運。シーズン1での打…
産休・育休制度について、選択的夫婦別姓について、ジェンダー論、LGBTについて、ハラスメントについて、無痛分娩について、これら日本社会が抱える課題について──こうも一から十まで説明的でなければ伝わらないものかと、ややもすれば手段が目的化しがちな…
「でももし、ひきこもりの人がいなかったら誰が思いやりや優しさよりも効率ばかり求める社会にNOと言えるのかな…」(松山ケンイチ) 優しさだけでは人を愛せない、優しさだけでは生きられない世界で。 不自由で不寛容な「普通」ばかりが幅を利かせる、正常が…
我らがボンクラコンビ、サイモン・ペッグ&ニック・フロストのやってみたシリーズ最新作。『ショーン・オブ・ザ・デッド』でゾンビ映画を、『ホット・ファズ』でポリスアクション、『ワールズ・エンド』でインベージョンSFをブリティッシュパロディ化した3部…
度を越したグロテスクがシーズン2ではなおも露悪的に、さらに躁病的にカリカチュアライズされて描かれる現代アメリカの肖像。 アメリカン・マチズモの病も、もはや末期症状だ。 肥大した自我の葛藤と並行して、深刻さを増す市民の対立。まさしく文化的内戦状…