散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

LION ライオン 25年目のただいま

少年は走る。人の波にさらわれぬよう、非力な子どもたちは走り続ける。夜の闇から逃げるように。母の元へと目指して走る。 “ライオン”──彼は逞しくあった。だけど何より幸運だった。 まさに“アンビリバボー”な奇跡体験。小説よりも奇なるそれは万に一つの奇…

アメリカン・ハニー

『フィッシュ・タンク』と同様、アンドレア・アーノルドのカメラは社会の底に“鎖”で繋がれながらも純真を宿す愛おしき少女のすぐそばを片時も離れずに横顔を見つめ、彼女の見つめる世界を肩越しに映す。 無軌道に。道なき道をゆく──“野良犬”の群れの如く、帰…

ショック集団

神は滅亡を願うとき、まずは人を狂わせる──ならば、世界は絶えず滅亡に向かっているのだろう。 社会性の中で精神の均衡を保ってこそ人間は人間らしくいられる。ところがいつの間にか、あるいは元来その社会の方が狂ってしまっているのだとしたら。心を偽り、…

戦慄病棟

聞けば『悪魔のいけにえ』と『13日の金曜日』のリメイクを撮った監督らしく、それならば今作はと言うと『死霊のはらわた』の意匠を継ぐようなスプラッターホラーそしてコメディとしてのオマージュ作品。過剰なまでのゴア描写へのこだわりはホラー狂の印。技…

エクスパンス −巨獣めざめる− シーズン3

途方も無いカオスに打ちひしがれるも、再び立ち上がった救世主の目を眩ませる終末のヴィジョンとは、例によってまたしても「プログラム」と「自由意志」の戦いであった。 ★2.5

カメラを止めるな!

言質を取るまでもなく──三谷幸喜的コメディの意匠を借りて、B級ジャンルムービーからのアプローチにより、馴れ合いの日本エンタメ界に一石を投じてみせた秀作。それがただのフォローワー、またはパロディの域に留まらず、上田慎一郎という記名性にスポットが…

エクスパンス −巨獣めざめる− シーズン2

アルマゲドンへの欲望。博士の異常な愛情。または私は如何にして心配するのを止めて“怪物”を愛するようになったか──。 サイエンス・フィクションの拡張はやがてスペキュレイティブ・フィクションとしての、内宇宙の深遠をめざす。それは複雑で単純な。母なる…

エクスパンス −巨獣めざめる− シーズン1

スペース・オペラとしてのサイエンス・フィクションの王道。その序章にサンプリングされるは、中折れ帽のハードボイルド。 まるで新鮮味のないガジェットには苦笑いすら浮かべるものの、現実にある地上のディストピアを虚構の宇宙戦争へと広げるSF的想像力の…

ファントム・スレッド

愛を人質に美を搾取する男。愛を宿す存在としての、女。 美しさこそ真理と定めた芸術家。あるいはそのミューズとの鬩ぎ合いによって織り成される、至上の悦びよ。 徹底された美意識を纏いし、なんと格調高く流麗で、ロマンティック且つスリリングな奇作の、…

トゥームレイダー ファースト・ミッション

もう、守られるばかりの存在じゃいられない。“レイダース”への憧れだって、男の子だけのものじゃない。 この世はでっかい宝島。そうさ、今こそアドベンチャー! 荒波に溺れ、悪漢に痛ぶられるヒロインへ向けられる邪な視線を撥ね付けるべく、鍛え上げられた…

ノクターナル・アニマルズ

いくら解釈に幅を持たせようが、これほどに剥き出しな、暴力的な表現から感受性を守る術はない。いかなる論理をもってしてもコントロールすることはできない領域への支配。物語は感情移入という従属関係を用いて読者を支配し、変革する。 愛や衝動を呼び覚ま…

パシフィック・リム アップライジング

イェーガーの軽量化に象徴されるかのように、いかにも続編らしい続編の軽さ、薄さ、その結果の凡庸さ。パシリムのトランスフォーマー化というのは、なんとしても避けたかったものだが……。 皮肉にも、過去の偉業を引き継ぐにはあまりに軟弱な新世代というテー…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

「愛している」の言葉も、「死なないでいて」という叫びも、遠く届かない深淵。 あらゆる明度の青が行き交う、彼の視界に。絶望の記憶が絶え間なくフラッシュバックする、この町で。 青は過去を蘇らせる。色褪せることなく。現在の風景に過ぎし日の情景は被…