散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

LION ライオン 25年目のただいま

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少年は走る。人の波にさらわれぬよう、非力な子どもたちは走り続ける。夜の闇から逃げるように。母の元へと目指して走る。

“ライオン”──彼は逞しくあった。だけど何より幸運だった。

まさに“アンビリバボー”な奇跡体験。小説よりも奇なるそれは万に一つの奇跡のような、天に導かれし少年の物語。

今現在、今日この夜にも……この狭い世界のあちらこちらで……ストリートの闇に消える数多の地獄のような現実から、辛うじて一篇、救い上げられた実話である。

遠い海の向こう。
今は大人になった少年も、記憶の影を追い続ける。過去を失えば未来に進めない──そんなアイデンティティーの葛藤や悲しみを自覚してしまうくらい、可能性に溢れた人生に恵まれて。四方八方、きれいに舗装された道に囲まれ、どこへだって行ける世界の真ん中で彼は立ち止まる。

同じ空の下。
浮かんでは消えそうな、故郷の風景、家族との思い出を"Google Earth"に重ねて。ここにはない、母の元へと通じる道を見つけ出すその日まで。


☆4.2