散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-01から1年間の記事一覧

ヴァレリアン 千の惑星の救世主

めくるめくワンダー。摩訶不思議アドベンチャー。未知への想像は、時空を超えたスペースファンタジーへの夢を広げる。 『フィフス・エレメント』の再構築。まるで『スター・ウォーズ』的世界観。それもそのはず、それらSF映画の金字塔の、創造の種は本作の原…

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

愛なき力はただの暴力。目を覆うばかりのグロテスク。それは、闇に紛れた野蛮な秩序が可視化されたに過ぎない光景。厳然として存在し、我々自身にも内在し、誰もが傷つき傷つけ合う人間の本質が戯画化されて浮かび上がる。 いつの世も、闇が世界を覆い尽くさ…

ぼくの名前はズッキーニ

風をとらえて、カイトは空へと舞い上がる。風をとらえて、ヨットは荒波をかき分けて進む。 冷たい風が頬をかすめる。風の愛撫が涙をぬぐう。 幼き心を運ぶ風。優しくあるように。逞しくあるように。 ☆3.6

フォー・クリスマス

「愛とは決して後悔しないこと」という名訳の本来の台詞は、"Love means never having to say you're sorry." 愛は、ごめんなさいを必要としない。 それは、“ラブ・ストーリー”。これは、ラブ・コメディー。とて、ラブストーリー。“ある愛の詩”には違いない…

ニア・ダーク/月夜の出来事

西部劇とヴァンパイアムービーのフュージョン。カントリーを打ち消すエレクトロニック・ロックの不穏。“夜を聞いた”ような、エレキやシンセサイザーの音像が町を揺らめく。怪奇映画に正統な夜の陰影。目がくらむほどの闇と、闇に燃え盛る炎の絶景。闇に差し…

スター・ウォーズ/最後のジェダイ

"FORCE"を"HOPE"と読み替えた『ローグ・ワン』を踏まえて、その再定義を確固たるものにすべくカノンに訪れた分断のとき。新旧の接合を図り、“新たなる希望”を見事に引き継いだかに見えたエピソード7への喝采は、賛否両論、大論争の渦と成す。まさに、聖典を…

ソフィー・マルソーの 愛人日記

優雅なショパンの調べにのせて、ひたすらに空転する絵画的な、演劇的なカオスが眠気を誘う。芸術という名の愛か退廃か。狂信者たちの、まるで野獣の咆哮がまどろみの中に……そよ風に揺られるように……閉じた瞼の向こう側に広がる。神々しいまでのソフィー・マ…

気狂いピエロ

「人生が物語(ロマン)と違うだなんて、悲しいわ」 彼女に恋をして、映画に恋をした。アンナ・カリーナへのゴダールの眼差しを借りて、叶わぬ愛の変遷を辿る。叶わぬ愛の思い出を投影する。映画と共にある人生の第二幕はこの『気狂いピエロ』に始まった。 僕…

パラダイム

知恵を有することで安寧を捨て、自由を手にした人の道には、絶えず“不都合な真実”が横たわる。宇宙という闇に包まれたこの星で、あるいは夜の闇が世界を覆う時の中で、人は本来的に邪悪を有する生き物であるという自明の理。善と悪の対立は神と悪魔のそれな…

いちご白書

セックス、ドラッグ、ロックンロール……フラワー・ムーブメントに極まれる恍惚の誘い。“いちご”のように甘く、打ち上げ花火のようにド派手に、そして儚く散る、一夜の夢のように。まるで終わらない学園祭、モラトリアムを最大源に引き伸ばしたカウンター・カ…

ヘンリー・フール

フィロソフィー。それはポエティックス、それはポリティクス。あるいはポルノグラフィー。ペテンの言葉遊び。取るに足らない平凡の悦楽。 美しい言葉と音楽の韻律が、悪魔のささやきのごとく、愚かな正直者たちを異端に走らせる。 「Run」 それを「走れ」と…

最後の脱出

地上より緑は消え、空の青は消え、波打ち際に響く笑い声も、鳥の歌声もない。人生の夢も希望も、そして愛も──。 枯れ果てた褐色の大地に、荒廃する人の心。力こそたった一つの正しさとばかりにそこはまるで西部劇のように殺伐とした、あるいは人間性を失った…

カーニー

美女と野獣たち。 “フリークス”たち旅芸人の一座にまた一人仲間入りする“愚か者”は、あの『タクシードライバー』から僅か4年、まだ少女のあどけなさが残る若き日のジョディ・フォスター。 美女を映し得れば映画たり得ることの証左を見る。 ☆3.2

ドッグ・ソルジャー

夜のハイウェイ。無数にすれ違うヘッドライトの明滅がカーステレオのフォークソングにビートを刻む。恍惚への誘い。ヒッピー・ムーブメント、若者革命の時代、怒れる若者たちの、哀れな反逆児たちの挽歌に揺れる。 Like a Rolling Stone.転がる石のように。 …

劇場版 STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)負荷領域のデジャヴ

止まることなく、戻ることなく、交わることのない流れの中で。ただ一人、それぞれに選ばれた未来を生かされる。無限に広がる可能性、つまり一秒ごとに世界線を超えて、有り得べき世界を日々繰り返し、夢であるはずがない夢と、現実であってはならない現実と…

劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME

変わり続ける者だけが変わらずにいられるのだろう進み続ける人だけに帰るべき町の夕暮れは美しい 走り続ける君がふと振り返る、笑顔の眩しさ微笑み返す過去の切なさ「いつか」は「いつも」へ未来は過去を追い越して僕らは彼女を追いかけて 繰り返される明日…

エル ELLE

サスペンスとしてはあまりに歪な、とはいえコメディと呼ぶにはブラックの行き過ぎた……複雑で多面的な、矛盾すらを孕んだ人間ドラマと言う他ない異様な語り口。あえて、所謂レイプリベンジものにジャンル分けしてしまうならば、他に類を見ない爽やかな読後感…

アダムス・ファミリー2

続編ものには珍しく、パート1に勝るとも劣らない名作。前作を凌ぐほどの生理的嫌悪感とは、つまり悪魔の誘惑にさらされた無垢が次なる女の誘惑におそわれる悪夢、その悦楽に溺れるものであった。 道徳の顛倒に魅せられた新たなる世界観。大層コミカルな怪奇…

アダムス・ファミリー

道化師は素顔見せずに。白痴は真実を語り。アダムス一家は不幸を笑い。死臭と腐敗のこの世の墓場でワルツを踊る。 “怒れる群衆”、そっち側の真人間の一味に違いなかった私にとって、この道徳の顛倒がいかに汚らわしく魅惑的なものであったか。現在にも続く眩…

スイス・アーミー・マン

幸せで美しい人生なんてものは元よりシュール。誰もが、人が生きていくことのクレイジーで“キモチワルイ”本質を有している。 人間らしく、自分らしくと純粋性を高めるほどにそれは顕著に。あるいは愛の純粋性を求めるほどにそれは狂気となって遠ざかっていく…

オリエント急行殺人事件

不朽の名画かくあるべしといった華やかなオーバーチュア、センセーショナルなプロローグを挟んで、オリエント急行出発の地イスタンブールの駅は巧みなカメラワークが人々の往来を賑やかに映す。本編のほとんどが列車内の密室に限定される本作にあって、冒頭…

オリエント急行殺人事件

善と悪のアンバランス。一つの悪に十の人生は狂わされるのだから。 神はいるけど何もしないよね。神は真実を知っても、悪を裁きやしない。ならばと、人間は、愛や、理性や教養といった人間的な善性ゆえの、正義という名の復讐にだって手を染めるだろう。 自…

トラスト・ミー

汚れを知らないイノセンス、汚れにか弱い“ナイーブ”な心のまま。ゆえに哀しく、優しい眼差しを宿したままに。社会の外れをさまよう一人ぼっちたちの、普通とは違う“オフビート”なアンサンブルがたまらなく心地いい。 きっと爆発することはない“手榴弾”を隠し…

FLIRT/フラート

たとえば1993年2月はニューヨークの、または1994年10月のベルリン、1995年3月は東京の街角にうつろう宙ぶらりんの愛の風景。いつの時代も世界中にありふれる、凡庸で深刻な、変わらぬ愛の、孤独の物語。 愛と言葉と銃声に響きあう、官能と安らぎと痛みのテク…

正午から3時まで

音楽が終わり耳に残った歌それは瞬きけれど 長い口づけ愛はついえ優しさはたゆとう思い出は終生私を温める 出会いと別れのつかの間の甘美。なんて美しい、恋の詩だろうか。 正午から3時まで。出会いから別れまでのその間、つかの間の永遠。永遠の瞬き──。人…

さらばバルデス

見渡す限りの荒野を、駆ける馬は少年を乗せて、嘶きは郷愁を誘うカントリーミュージックと重なって落日の空に染み入る。詩情豊かに、滅びゆく歴史のピリオドが綴られる──それは西部開拓期の“黄金時代”への、あるいはインディアンの文化、消滅するフロンティ…

チャトズ・ランド

おそらくは暴力性こそが人間の人間たる本質であろうことの悲劇。戦争と文明は同義にあり、憎しみが憎しみを呼ぶ戦いのための戦い、その連綿たる歴史の上にすべての人類は立っていることを否定できない。 偏見と欲望本位で暴行し、人を殺す──血に飢えた野獣た…

アンダン ~時を超える者~

到底、受け止めきれない悲劇の記憶は、その感情と共に心の奥底に仕舞われる。トラウマとはそう、忘却を装って存在し続ける、無意識下に影響を与え続ける、現在という現実に過去の幻影を混在させる進行性の悲劇である。 保存された悲劇をゆっくりと溶かしてい…

おとなの事情

秘密。つまりは信頼によって築かれた特別な関係性が、さらなる秘密の現出によって崩壊していく──このまったくの無常に抵抗する術は、沈黙の他にないのだろうか。 真実が不幸をもたらすと言うのならば、幻想を共に演じようか。それが愛であり、友情であり、幸…

サボテンの花

恋のロマンティークはその終わりとて美しく、その絶望とて甘い蜜の味。なんてキュートでスウィートな。チャームの塊のような、“ピクシーガール”の自殺未遂にはじまる恋のから騒ぎ。恋はスクリューボール・コメディ。 愛とは人生のすべてを捧げることを言うの…