散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-01から1年間の記事一覧

ルシアンの青春

戦争は少年たちの恋する季節を奪い、恋を経て大人になるはずの無垢に“ピストル”を持たせる。愛を知る前に力を手にしてしまった“悪党”たちの、悲しき青春。 ☆3.8

地球の静止する日

未知への好奇心。無知への誠実さ。 それらつまり理性的な態度で異文化を乗り越えられるならば、平和という概念もいつかは実現するやもしれぬ。しかし現実は、力と力による均衡、あるいは侵略による統治の成れの果て。大いなる力の庇護にある、つまりは大いな…

フリクリ

青い芥子の花びらが風もなく揺れてたら──。 それは、いつか失くしてしまったはずの情景が鮮烈に蘇るビートに、連なるメロディ。さわれないその記憶。だけど偽物じゃないその光。街色の蜃気楼が鍵だらけのこの部屋に広がっていく、アンチパセティックな郷愁と…

デトロイト

人類史の開始と共に続く混迷、止むことのない“自由か死”の戦争。白も黒も、イエローもない。肌の色に問題の本質があるわけではない。権力と暴力による支配構造に安心を得る、哀れな神経症の猿の生態に違いない。それが彼らのサヴァイヴなのだから。なくなる…

予兆 散歩する侵略者 劇場版

「どうせ世界は終わる。私も消える。だから」と涙を流して運命に身を投げたロマンティシズムと対応するように、世界の終わりはつまり死の恐怖が生への渇望をもたらすアナザーストーリーによって、補完される愛の“概念”。 死という概念に呪われた人間という種…

散歩する侵略者

愛とは何か──。 定義し得ないが、しかし確かに存在し、図らずとも実践さえしてしまう“概念”。言葉にせずとも、ならずとも、暗黙のうちに通じ合う。人間を人間たらしめる最も崇高な上位概念とされる願い。 人間とは何か。 ならば愛の僕。愛に救われ、滅ぼされ…

ペット

また朝がやって来た太陽の光が目に眩しい心も体も思うように動かない そんな時、君を見つめるそれですべてが動きはじめる君を見つめるただそれだけで僕らの未来は大丈夫だって 素敵な一日がはじまる素敵な一日がきっとこの愛おしさよこの素晴らしき世界よ 「…

ディヴァイド

一人の美女に向けられる醜悪な眼差し。片時も休まることのない警戒心に宿る、ミサンドリーの眼差し。 またも、世界の終わりの焼き直しに、極限の閉鎖空間に露わにされる人間の本性。想像力の貧困、とはいえ、二番煎じ、三番煎じと薄まっていく新鮮味の中にも…

クワイエット・プレイス

得体の知れない外敵から身を潜め、我が子を守り抜く父と母の戦い。孤立無援。あまりに非力で無防備な、家族という最小単位の共同体で所詮は生き抜くことを強いられるこの世のリアリズムが重なって見える。 世に蔓延る理不尽、あるいは暴力に対抗するべくもな…

ボブという名の猫 幸せのハイタッチ

大都会はロンドンの、孤独という名の無人島の。どん底に転がる人生という名のストーリーに、迷い込んだ一匹の茶トラ猫。(「ツイン・ピークス」のキラー・ボブより)ボブという名のストリート・キャット。 まん丸の両目でじっとこちらを見つめるボブ。見つめ…

メアリー&マックス

"LOVE YOURSELF FIRST" そうは言っても、愛を知らない。愛し方がわからない。愛されたこともない。涙も出ない。こんなに悲しいのに。どうしてこんなに寂しいのに、僕らはみんな独りぼっち。一人一人、別々の道。騒々しく、悪臭漂う人混みの、無秩序な町を行…

グッド・オーメンズ

フラット化を要請する社会では、対となって先鋭化する思想が緊張を高め合う。あらゆる二項対立は原理主義化。行き過ぎた正義が正義でなくなるように、極端な右も左も同じであるように、いつしか対立と勝利こそが目的化。人間の本質的な欲望、本音をさらけ出…

ギヴァー 記憶を注ぐ者

物語に紡がれる。数えきれないほどの、確かにこの世界に存在した“愛”の記憶。表裏一体にある残酷の、苦悩の、憎しみの、痛みの、喪失のフラッシュバックを一筋の涙に閉じ込めて──。 きよしこの夜。“愛”が未来を灯す希望の言葉でありますようにと、聖なる夜に…

search/サーチ

全編、パソコンの画面上で話を展開させるというワンアイデアに終わらせない巧みなプロットが、サスペンスフルなストーリーに人間ドラマを立ち上がらせる。鮮やかな伏線回収もさることながら、父泣き映画の評判に違わない感動が待っている。 まさかカーソルの…

アンフレンデッド

終始、MacのPC画面そのままの動作が擬似的に演出され、視界に捉えるFacebookやSkypeのポップアップやチャットの文字を目で追わされるうちに、映画を観ているはずが、まるでPCをいじっているようだとは言わないまでも、Youtubeで適当な動画を眺めている程度の…

ブラック・ハッカー

常時、ネットワークに繋がったままのPC画面上でストーリーを進行するとなると、これほど脆弱な媒介はなく、映画における見る見られる関係もあっという間に反転する。 視線は誘導され、情報はいくらでも偽装され、そもそも世界の全ては四角形の枠を出ない。そ…

眠れる美女

人は愛によって自由から遠ざかる。愛という自由意志によって、自由を放棄する。その限りにおいては、如何なる悲劇も美をもって語りうる。語りうる人生への希求、愛の欲求。それは誰もが望まざるも生まれ落ち、“目覚める”運命を受け入れるにあたって、侵され…

かわいい毒草

【町山智浩のVIDEO SHOP UFO】 月曜日、君と出会い火曜日、恋に落ちた水曜日、僕は不実で──木曜日、人を殺める 仕組まれたボーイミーツガールも儚くは泡と消える。 現実に耐え切れず空想へ逃げ込んだ男の用意した“嘘”で、生身の少女の底知れぬ欲望が満たされ…

レディ・バード

愛しくて愛しくて、“死ぬほど”涙がこぼれそう。 美しい世界、素晴らしい人生。あなたの優しさ。いつだって最高のあなた。カーステレオに流れるお気に入りのヒットソングが、声にならない言葉を、言葉にできない感動を歌う。 毛先をピンクに染めて、少し猫背…

シンクロナイズドモンスター

色恋沙汰と世界の終わり。同監督作『エンド・オブ・ザ・ワールド』でも見られた奇想天外なジャンル融合、予定不調和なストーリー展開、再び。 嫉妬や劣等感、肥大化した自我のメタファーとして、まさに巨大化した“モンスター”と対峙する砂場の箱庭表現は、無…

死霊のはらわた

『死霊のはらわた』のリメイクという、どうやったって冷笑に終わることが目に見えている無茶な企画で、まさか一定の成功を収めてしまったフェデ・アルバレスの手腕にまずはアッパレ。後に『ドント・ブリーズ』で脚光を浴びるのも納得の快作が長編デビュー作…

ジグソウ:ソウ・レガシー

リブートと謳われるも、内容としては前作までのストーリーを正当に継承するシリーズ8作目の続編と言って違わないもの。つまり、回を重ねる毎に下降を続けるシリーズの最新作にして、出来の方も言わずもがなの……。 せっかく、原点に倣った、どんでん返しに注…

ポセイドン

古き良き、幸運な、映画の出会い方。たまたまつけたチャンネルにちょうど映し出されたワーナー・ブラザースのオープニングロゴに導かれるように、タイトルも何もわからないまま──舞台は豪華客船。どうやらパニックムービーの予兆──ほどほどのモチベーション…

キングス・オブ・サマー

少年は優しすぎるがゆえに臆病で、ぶつかり合うことなく、分かち合うことなく、望むべくして独りを選んだ。 拳を交える友も。夕暮れに恋を語り合う友も。大人の真似事や危険な遊びを共謀し、共に火傷する友も。冒険に出かけることも、友と、丘の上に立って自…

ソウ ザ・ファイナル 3D

因果応報のサイコスリラーがただのトーチャーホラーに成り下がり、ついにそのグロテスクもコメディーに転倒しかねない、もはや失笑のシリーズ完結編。なんて言いながら、10年遅ればせながらも全作コンプリートしてしまったのは、第一作の衝撃に見合った長い…

ソウ6

フロムダスクティルドーン。一日の終わりは夢の始まり。無論、悪夢とて。 人々が寝静まった頃合い、丑三つ時なんて理想的なシチュエーション。静寂と暗闇に包まれた孤独の一室で、なぜにホラーを、死の遊戯を眼前に、恐怖を欲望するのか。 それは生が死に直…

シンデレラ

保守的であることがすなわち悪であろうはずはないが、愛と知性を持ち寄ってより良い社会を目指そうとする進歩主義が否定される謂れもあろうはずがない。 ただし、正義にかこつけた前時代へのアンチテーゼにはある種の暴力性が内在することに自覚的でなければ…

グランドフィナーレ

映画という魔術的なメディアの。まさしく“マエストロ”というべき天才の。つまりは自殺的な、自作自演の──。 恍惚を呼ぶ映像美の、淀みなく続く緊張と弛緩。構図の妙に絡み合う音楽の官能。 映像と音楽の、その魔術的な言語を理解するのに言葉は要しない。大…

ゲームの規則

ゲームの規則、恋のルール。愛の掟、人の道──。 正直者が馬鹿を見る、世の無情。ブルジョワの群像。憐れな幻想。滅びゆく秩序。狂騒、ほとんど躁。人生は喜劇だ!とは、真っ赤な嘘。 大戦前夜を知ってか知らずか、迫り来る暗黒を目前に。揺らめく風前の灯火…

グッドナイト・マミー

無垢の残酷、愛の残酷。 少年の曇りなき純粋、すなわち狂気にも似た愛の証明にもたらされる悲劇。まるで悪夢、それは誰の目にも明らかな、考えうる限り残酷な結末に違いなかったとしても──。 覚めない夢の中で真実など無意味。 まぶたを閉じれば闇の向こうに…