散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

グランドフィナーレ

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映画という魔術的なメディアの。まさしく“マエストロ”というべき天才の。つまりは自殺的な、自作自演の──。

恍惚を呼ぶ映像美の、淀みなく続く緊張と弛緩。構図の妙に絡み合う音楽の官能。

映像と音楽の、その魔術的な言語を理解するのに言葉は要しない。大きく傾いたリクライニングソファに全身を預ければ、ただそこにあるだけの陶酔に浸り、網膜から、鼓膜から、触覚に至るまでの五感に沁み入る幻に移入するとき、刹那の永遠に、僕らは自由を錯覚しうる。

遠い過去の記憶、あるいは近い未来への眼差しとてカメラのレンズを通して。世界のすべてをその画角に収めるように。恋や哲学や、“若さ”といった幻想の美を語らう、それが人生。その感動こそすべての人生を愛した才人の。
グランドフィナーレの静寂よ。


☆3.8