散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2022-01-01から1年間の記事一覧

エアポート・アドベンチャー クリスマス大作戦

監督ポール・フェイグのフィルモグラフィーから『フリークス学園』とも通ずる、いわゆるスクールカーストの垣根を越えた友情と共闘の物語にはブレックファスト・クラブの精神が息づく。Eテレでやってるシットコムのようなコメディセンスにはやや子供騙しのき…

ホーム・アローン2

ただ貰う側から、施し、与える側への成長の軌跡。連綿と受け継がれるクリスマス精神をその小さな体に体現してみせるは、天才子役マコーレー・カルキン。僕らにとっての郷愁であり、もはやクリスマス映画の古典。 ☆Review

ブラザーサンタ

クリスマスプレゼントは何をもらったかということよりも、何かをもらえたという確かな承認がその子の心に慈しみの種をまく。優しくされて優しくできる。人を愛するための愛された記憶。そのことを決して忘れないために、一年に一度の聖夜を祝う。 ☆3.6

エレニの帰郷

我が心のミューズ、イレーヌ・ジャコブを見つめる先に突として、白い雪景色に広がる映像詩、壮麗な時間の流れに身を委ねる安らぎの感覚が甦る。『トリコロール/赤の愛』にそんな映画を見る根源的な喜びを知って以来、探し求めていたはずの、そしていつしか…

ペギー・スーの結婚

あんな人生もあった、こんな人生もあったという後悔に導かれて、数多の可能性に満ちた青春時代を懐古(タイムトラベル)するのは、過去はおろか現在の自分までをも否定してしまうことに他ならない。今を誇らしく生きられない者が何度、人生を選び直したとこ…

オンリー・ユー

運命とは、いつでも加筆修正可能な自作自演のおとぎ話。おもしろきこともなきこの世をおもしろくする遊び。偶然の点と点を結び、後付けの必然を導き出すことのなんと容易いロマンティックなる永遠の恋、真実の愛。往々にして叶わない、しかしそれなくしては…

クレイマー、クレイマー

休日の朝、父の作るフレンチトーストがとびきりおいしかった思い出。多くは語るまい。名作。 ☆4.1

蜘蛛の巣を払う女

一本のスパイアクションとしては秀作ながらも、本国『ミレニアム』シリーズの硬質な北欧ミステリーは薄れ、フィンチャー版のようなスタイリッシュさにも欠ける。新たなリスベット役にクレア・フォイは健闘も、あのハマり役だったルーニー・マーラと比較され…

バンカー・パレス・ホテル

かつての社会主義国家を思わせる街並みに、銃声は鳴り響き、白濁色の酸性雨が降りしきるレトロフューチャー。世界観の構築がとりわけSF映画の至上の価値であるならば、今作のブルーグレーなヴィジュアルイメージを原風景に、そのディストピア像を決定付けた…

ハンナ・アーレント

“悪の凡庸さ”を巡る哲学的問いに並行して、ハイデガーとの師弟関係や、激烈な世間の風当たりにも屈しない一人の思想家、一人の人間としての女性像を描くヒューマンドラマはまさしく「理性と情熱の一体」をなす語り口。愚かな思考停止を許さない、極めて理性…

モリーズ・ゲーム

いかにも脚本家の作る伝記映画の情報過多。ひたすらセリフの応酬に依拠する語り口の冗長さを否めない。アーロン・ソーキンのビジュアルセンスを疑う、視覚情報としての映画的快楽の欠如。せめてもの華やかさを一身に纏う、ジェシカ・チャステインのドレスシ…

ブリグズビー・ベア

童心に抱く優しい世界の嘘を嘘と知って大人になる。物語は終わる、しかし人生は続くその糧となる、信じるにたる愛の証明をフィクションに託す。そんな映画が好きである。 ☆4.0

バーバラと心の巨人

死への恐怖、喪失の悲しみ。抱えきれない思春期の情動をメタファーに“心の巨人”を創り上げる少女の成長譚。想像の力は孤独を癒し、過酷な現実を受け入れるべく勇気をも与える。誰もが一人の人生を強く生き抜くためになくてはならない物語についての物語。 ☆3…

さらば冬のかもめ

自由への逃走。その無力なる闘争の行き着く先には哀愁漂うロードムービー。ささやかなる社会への抵抗に個人としての人間性を賛美する、ニューシネマの季節。 ブラボー、ヤンキー、バイバイ。 ☆3.0

DAU. ナターシャ

スターリン下のソ連全体主義を街ごと、生活者も含めて再現するという前代未聞、狂気のプロジェクト。その一端を膨大なフッテージから映画という芸術体系に収めた、壮大なる実験のほんの序章。 「帰りたい」「ここから出して」とは、虚実皮膜に閉じ込められた…

ホテル・ニューハンプシャー

災難に次ぐ災難、それでも生き続けるしかない人生への諦念を“おとぎ話”に謳い上げる。シリアスとユーモアの歪な塩梅はまさに人生の辛酸を味わうかのごとく。妙齢なるジョディ・フォスターの魅惑に酔いしれながら。 ☆3.0

世界にひとつのロマンティック

ロマコメの皮をかぶった、あって然るべき医療保険法案の一つさえ通せないアメリカ議会への風刺を込めた社会派コメディ。それでもダンスシーンにNG集のおまけ付きで、ハッピーエンディングはお約束の通り。 情緒不安定な画調は、癇癪持ちのデヴィッド・O・ラ…

68キル

強かなる女の秘密、嘘、涙、あるいは誘惑への服従さえも、男の愛であって然るべき狂気の沙汰を嗤う。自虐。歪んだ女性崇拝にマゾヒズムを充足させるポルノ的な愉悦に浸る。グロテスクかつエロティックな、巻き込まれ型スリラーに弄ばれては昇天必至……のはず…

ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女

チャドルを纏ったヴァンパイアガールが男を喰らって回るという政治的な意図いかんにかかわらず、対照的にロマンチックなボーイミーツガールの至上の美が、漆黒の闇とまばゆい光のコントラストに映える。モノクロームの耽美。 製作総指揮にイライジャ・ウッド…

ミッドナイト・ガイズ

老境を迎えたジジイの自惚れも、幻想においては許されし美学。ダイナーと娼館とを周回する一夜のロードムービーに、いつまでたっても悪ガキのままの、男のロマンティシズムを垂れ流す。 クリストファー・ウォーケン、アル・パチーノ、アラン・アーキンと名優…

血を吸うカメラ

“PEEPING TOM“というタイトルに呼応して、ヒッチコック似の変態紳士が通りすがる“コメディ”。 大事そうに抱えるシネカメラの、その先端に仕込んだ鋭利な刃物に男の性的不能を覗かせる。倒錯的な欲望への犯行を理性的なカメラワーク、照明の演出で魅せる不確…

まともな男

責任逃れの非主体性、その場しのぎの事なかれ主義──自己保身のための“優しい嘘”の、偽善はおろかその加害性をも露わにする、どこまでもアイロニックで冷ややかな視線。事もあろうにそんな嘘がまかり通ってしまう人の世の、カタルシスなき悲劇に救いなし。 一…

ハネムーン

新種のボディスナッチャーズ。そのメタファーは、愛がゆえの喪失への不安。いつか自分の“もの”ではなくなってしまう、ぼくの知らない君へと変わっていってしまう。そんな嫉妬と妄執にかられた狭窄的な愛の不可能性を、またしても新進気鋭の女性監督はホラー…

マングラー

スティーヴン・キング×トビー・フーパー。 巨大洗濯工場のスチームパンク感に心躍らせるも、物語は悪魔、生贄、処女の血と、月並みなオカルトモチーフに停滞する。が、ラストに仰天、サービス満点の大仕掛け。モンスターパニック、アーメン、ガッデム! ☆3.1

ヘル・レイザー

ピンヘッドのヴィジュアルだけですでにトラウマ級のインパクトを誇るが、なんてことはない、思いのほかお茶目な魔道士軍団が微笑ましく、随所にグロテスクも、ホラーとユーモアの表裏一体が緊張と緩和のエンターテインメントを楽しませる。悲鳴を上げては笑…

アイム・ノット・シリアルキラー

アメリカの寒々とした田舎町を舞台に、少年と老人の交流に心温めるはずのドラマはまさかの狂気を迂回し、愛へとたどり着く。ソシオパス、その殺人衝動との葛藤の末に愛への目覚めを語りうるアクロバット。ざらついた16ミリフィルムの詩情を突如として脅かす…

隣の影

心の疵を埋め合わす邪悪。些細な気の迷いが取り返しのつかない事態を引き起こす。 「根に持つ」とか「影を落とす」といった言語表現にも結びつく一本の木をシンボリックに、北欧はアイスランドとて当然起こりうる隣人トラブルを描くブラックすぎるホームドラ…

マンディ 地獄のロード・ウォリアー

これはどえらいドラッグムービー。本邦にて合法的にそのトリップなる酩酊感を味わえる上物。甘美で夢幻的な愛の風景から、章を隔て、血みどろバイオレンスのゴアが襲う暴力的なまでのサイケな明滅。ヨハン・ヨハンソンの遺したスコアの轟音が脳髄を響かせ、…

カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇

ラヴクラフト原作の超常的な世界観に、まばゆい極彩色が映える。グロテスクも良きホラー映画の美しさかな。すべてはニコラス・ケイジの狂気の淵を飾る。 ☆3.5

HUNT/餌 ハント・エサ

姿形を変えて君臨する“百獣の王”に、親愛さらなる崇拝の念を抱くは飼い慣らされた野生。我々、人類はもはや“ネコ”の御前にまったくの無力を思い知るのである。 ☆2.7