散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

地球最後の男 オメガマン

リチャード・マシスン同原作、ウィル・スミス版『アイ・アム・レジェンド』のようなサバイバルホラーを期待するとやや肩透かしを食らう。60年代のカウンターカルチャー、公民権運動の流れを汲み、文明批判を滲ませるディストピア映画。 とりわけKKKの三角頭…

バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ

ラクーンシティを舞台にゾンビホラーとしての原点回帰を図る。そこかしこに散らばる原作モチーフ。アイテムからカメラワーク、銃の発砲音やアンデッドの硬さ加減にまでリスペクトを込めた“再現”を施す。まるでゲームのムービー演出を見ているかのようなぶつ…

エコーズ

リチャード・マシスン原作。 “平和な町に隠された暗部”を掘り起こすケヴィン・ベーコンの一心不乱な狂気。シュールな催眠表現に、あるいはツインピークスの残響。 ☆3.3

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス

そんなにぶっ飛んでもない、普通にブラックスプロイテーションなのもそのはず、サン・ラーの〜と銘打つも監督のみ別人の罠。結局、ライブシーンが一番ヤバイのはその〈主演〉と〈音楽〉に多くを依拠し、映像的なアヴァンギャルドには欠けることの表れではな…

信頼できない語り手。羅生門的なそれ。 これにてようやく、ジョー・ダンテの『ザ・ホール』、ディズニー映画の『穴/HOLES』、そしてソーラ・バーチの『穴』と記憶が整理される。さすがにジャック・ベッケルの脱獄もの『穴』は別枠として。 ☆3.1

黒い罠

天才の所業。退屈なショットがほぼ皆無。冒頭の長回しからずっと、フィルムノワールの深い陰影に映画的快楽を持続する。シリアスかつユーモラスに、そして哀愁漂う娯楽映画としてその偉業。 この美的感覚に類例を挙げるならば、『第三の男』。そういえばあち…

世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方

無免許運転は当たり前、窃盗、器物損壊、破壊工作、ついには水道テロまでアナーキーの限りを尽くす極悪キッズのパンクムービー! しかしまぁ、“フツー”じゃつまんねーという映画において、典型、平均、凡人 、一般的と、その多様な日本語表現の皮肉なことよ。…

悪魔

狂っているのは世界か、俺か。歪んだ世界に狂わされるのか──。誰もが喚き、のたうち、転げ回って、愛欲と死の恍惚に身を震わせる地獄絵図。踊るように躍動するカメラと共に、狂気の沙汰に没入していく。悪魔のささやきが神の不在、そして人間の野蛮を露わに…

夜の第三部分

当時のポーランド、“混沌”の政治状況を下敷きにしてようやく暗喩に満ちたストーリーを理解できるのかもしれないし、そうでもないのかもしれないが、ともかくもズラウスキー映画の異様なハイテンションをいなし、観念的な台詞の洪水に揺蕩うすべを『シルバー…

ようこそ映画音響の世界へ

音楽は感情を支配し、効果音は画面の内外からその臨場感を増幅させる。またアフレコによってシーンに介入さえもする。「映画体験の半分は音である」どころか、無意識的な領域においてはそのほとんどに作用する影の主役。映画の最も甘美なる瞬間、“静寂”すら…

アルジェの戦い

人間が根源的に自由を欲する生き物である限り、自由が他者の自由をも奪う暴力性を内包するならば、戦争とは極めて人間的な実存の発露として衝動されるものなのではないか。正義か悪かになく、自由か否かの相克を繰り返す。レジスタンスも所変わればテロリス…

オープニング・ナイト

改めてカサヴェテスが撮るジーナ・ローランズの絶世の美しさ、そして貫禄。かと思えば少女のようなあどけなさをふと覗かせる。煙草とサングラスの似合う“悪女”の、いつも神経症的な役柄のイメージにそぐわないこんなにも愛らしい素顔が、バックステージもの…

ロスト・イン・パリ

日々、ハイコンテクストに高度化した日本のお笑いを浴び続けていると、こうした古き良きサイレント時代を思わせる、身体的で牧歌的なコメディ映画に得難い喜びを感じる。“誰も傷つけない笑い”はむしろ古典に倣うべきものだと気付かされる。 エマニュエル・リ…

地獄愛

愛は人を狂わせ、時に人を殺させもする。そんなロマンティシズムを幻滅させるに十分な醜悪。決して美女とは言えない中年女性の、目の皺や肌のたるみにまで迫るクローズアップ。痴情のもつれに“変態”する愛の、正視に耐えないグロテスク。 同じ事件を題材にし…

テリー・ギリアムのドン・キホーテ

悲願達成の祝祭感よりも、映画製作の罪と呪いが色濃く重なるメタフィクションに、苦節30年をたどる構想の変遷が見受けられる。「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」と題されるのもやむなしの自己投影を、ギリアムも認めざるを得ないだろう。いっその事、自…

シルバー・グローブ/銀の惑星

未完のSF超大作にして、ズラウスキーの集大成を見る記念碑的な一作なのではないか。『ポゼッション』の再現を求めては挫折を繰り返した日々も報われるかのようだ。 過去の鑑賞作品に比してもとりわけ難解なストーリーは早々に放棄し、トライバルなビート、哲…

ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!

カウリスマキ的なこれぞフィンランド映画のオフビートに、デスボイス、早弾きのギターリフが乗る。長髪を振り乱す、黒T軍団のヘドバンギャー!! 全ての道は『アンヴィル!』に通ずのだろうか、不屈のメタル・アティチュードに敬服する。 ☆3.4

アングスト/不安

「恐怖を体験させる」という狂人の欲望とホラーのそれとが結びつく、当然の帰結。 ある男の殺人衝動から、まるで映画的でない冗長な死体処理までの一部始終にカメラは密着し、哀れな誇大妄想の垂れ流しに晒される。半強制的な一人称への移入に、ひたすら“不…

スピリッツ・オブ・ジ・エア

『ダークシティ』が夜の桃源郷ならば今作は昼のそれ。真っ青な空とオレンジの大地を割る地平線、ブロークンヒルの荒野に未だ嘗て見たことのないポストアポカリプスを構築する。唯一無二のヴィジョンをスクリーンに映し得る、その一点に映画の価値は大いに示…

虐殺器官

かつての押井作品を思わせるペダンチックな言い回しに懐かしさと、少々の気恥ずかしさを覚えつつも、そのSF的思考実験に想定される2022年の虚構が現実のそれにあまりに近接する作者(あるいは原作者)の慧眼には驚かされる。 人は、見たいものだけを見て暮ら…

ロープ/戦場の生命線

たった一本のロープを探し求めて車を走らせるだけのことが、これほどのドラマになり得てしまう紛争地帯の現場。「これが戦争だ」と異口同音に迫られる現状追認をことごとく受け入れざるを得ない。複雑に絡み合った人間模様を大上段に構えた論理で解けるわけ…

地獄の門

これでフルチの血まみれ3部作完走のはずが、よっぽどの映像体験に防衛本能が働いたのか、『サンゲリア』も『ビヨンド』も確かに見たという記憶以外、何も思い出せない恐ろしさ。無意識下に、“忘れようとしても思い出せない”ほどのトラウマ映画として刻まれて…

バスケットケース

笑うに笑えないシュールなムードが独特の可笑しみと共に、醜い“化け物”の哀愁を誘う。モンスターホラーの博愛精神。のけ者たちの疎外感に寄り添い、またその復讐心さえ物語に昇華させる。絶叫のカタルシスには、寂しさゆえの怒りが入り混じる。誰もが寂しく…

ディープ・インパクト

ニューヨークの街をまるごと飲み込む津波のVFXにイメージされるようなディザスターというよりも、思いの外、『地球最後の日』の世界観を理知的に再構成する、市井の群像に本質を見るヒューマンドラマ。どうしたって『アルマゲドン』との比較となれば、その愛…

アルカトラズからの脱出

かの難攻不落のアルカトラズ刑務所、伝説の脱獄劇。 下手な感傷は削ぎ落とし、脱獄の行方に徹底した描写が随一の緊迫感を演出する。脱獄ものは数あれど、ジャック・ベッケル『穴』に次ぐ傑作の一つとして見た。過去を語らず、何ものにも縛られず、ただ自由を…

おとなの恋は、まわり道

とめどない減らず口の応酬。こじらせ中年男女のビフォアシリーズは、煮詰まった厭世に偏屈、毒舌の愉快なハッピーウェディング。もはや共感なんぞ求めやしないとばかりに、キアヌとウィノナ以外は全員モブキャラ、観客さえ置いてけぼりの、まるで二人だけの…

ターミナル

良識は規則に勝る、その志には胸打たれるものがある。 ただ、フォレスト・ガンプの影が重なるトム・ハンクスの姿にはどうにも警戒心を拭えない。その白痴的な純粋無垢をやはり感動で包むおとぎ話に、居心地の悪さを感じてしまうのだ。 ☆3.0

JOLT ジョルト

我々は普段、どれほどの衝動を押さえつけて、怒るべき怒りも押し殺して、“普通”の世界を維持しているのか。そして心を病んでいくのか。狂っているのは世界か自分か、世界も自分も狂っていくのか──。しかしそうした命題を徐々に逸れ、空虚なアクションとロマ…

13人の命

2018年、サッカーW杯ロシア大会の裏側で。ブラジルの準々決勝敗退、つまり我々としては“ロストフの悲劇”と共に記憶されるもう一つのドラマ。 事実は小説よりも奇なりのそれにしても、あまりに荒唐無稽な、むしろフィクションでは成り立たないほどの想像を絶…

アンジェリカの微笑み

光と音による魔術。映像と音楽のマリアージュ。陶酔と昏睡の狭間に、現実でも幻でもない“絶対空間”を漂う。台詞は説明を排し、言葉はユーモアな破調を奏でるのみ。愛の滑稽が幽玄の美に溶け合う刹那の連続をフレームに刻む。そして静かなる暗転、永遠に向か…