散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

虐殺器官

かつての押井作品を思わせるペダンチックな言い回しに懐かしさと、少々の気恥ずかしさを覚えつつも、そのSF的思考実験に想定される2022年の虚構が現実のそれにあまりに近接する作者(あるいは原作者)の慧眼には驚かされる。

人は、見たいものだけを見て暮らす。まさにSNSに駆動される憎悪に対立を煽る政治手法がもっとも功を奏し、世界を敵と味方、仲間とそれ以外に二分することで、他者に対して無感覚になることを覚えた堕落した社会。いや残酷と言うべき、数多の犠牲の上に成り立つ自由で安全な社会を顧みない無関心。愛する人を守るためには平気で他の誰かを見殺しにしてしまう、あるいはそれを人類としての生得的な生存戦略とする恐るべきディストピアが現代のリアリズムと符合する。

戦争は、小国同士の代理戦争へと仕向けられ、安全圏から暴力に至る思考、思考を司る言葉の氾濫がさらなる世界の不均衡を加速させていく。


☆3.2