散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2020-01-01から1年間の記事一覧

シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

ファンムービーも突き詰めれば立派にエンターテインメントたりえることの証明。監督、脚本、主演を務めるフィリップ・ラショーのシティーハンター愛がビンビンに伝わる。 フランス流ナンセンスコメディとの親和性は高く、アイデア溢れるスラップスティックに…

デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆

それぞれが違う世界を生きるもの同士、別々の人生を歩む同志たちにやがて訪れる「離別」のとき。その、どうしようもなく宿命づけられた人生の痛み。耐えられないほどの悲しみ。無限の可能性の先に世界の有限性を知りうることへの切なさこそが、我らがデジモ…

バンブルビー

異常な怪作から凡庸な佳作へとの指摘は一理あるも、マイケル・ベイの創り上げるカオスと、メカニカルなグロテスクにどうしても生理的嫌悪感を覚えてしまう身としては、待望のスピンオフシリーズ。それも舞台は1987年のメモリアル。80'ノスタルジーからなる青…

ヒックとドラゴン 聖地への冒険

通過儀礼としての喪失と成長の物語を三部作に描き切った見事な着地。傑作シリーズ完結編。 少年が大人になるということは、親となり、子を育てるということは、いつの日か愛の旅立ちを見送るときが訪れるということ。 出会いはいつかの別れを意味し、愛は痛…

クリスマス・カンパニー

もしもサンタがいなかったなら、イブの夜におもちゃが届かなかったら、クリスマスなんてなかったとしたら。夢を見ることもなく、信じることの尊さも知り得ない子どもたちの未来は、さぞかし暗く寒々しい世界の“現実”に覆われてしまっていることだろう。 彼ら…

クーパー家の晩餐会

神様を信じてるんじゃなくて、クリスマスの奇跡を信じてる。誰もが笑顔の一日になりますようにと、誰もが恵まれない人々の幸せを祈る一日でありますようにと。「メリークリスマス」の魔法の言葉に、人として最も崇高な感情、愛を取り戻すための大切な記念日…

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー

刹那に永遠を映し得る映画という芸術ならでは、ストーリーを超越するヒストリーへの視座。その映像詩に刻まれた情念に人類史の痕跡を辿る、あるいは霊的体験。 人ならざる者のまなざしが、宇宙の輪廻に匹敵するたった一つの愛の喪失を癒し得る。または、忘れ…

幸せなひとりぼっち

まるで女神のようだった。彼女のために。彼女とともに。それが人生のすべてだった。なのに彼女は逝ってしまった。だから自分も死ぬことにした。走馬灯が巡る。鮮やかな思い出の中で、彼女の声が今も聞こえる── 「今を必死に生きるのよ」と。 愛ゆえの孤独を…

希望のかなた

善を為すために法を犯さねばならない現実。“平等の国”が抱える欺瞞。蔓延る人々の不寛容。リアリズムとは、机上の論理で自国の富を囲い込むばかりの狡猾さのことではなかったはずだ。手を差し伸べれば、その手に温もりを知ったものを。凍てつく刃を突き立て…

ヘレディタリー/継承

曰く、“実存的な恐怖”。映画と現実が地続きに、その闇が一体となって混濁する“完璧な悪夢”。 何度背後を振り返ったか、部屋の四隅に目を凝らしたか。ゆっくりと神経をいたぶられるかのような不穏、もはや体に変調を来すほどの不安感に苛まれ、ついにはホラー…

恐怖の報酬 オリジナル完全版

地の果てに見るこれぞ地獄絵図。おどろおどろしくも、恐るべきことに美しくもあり、ある種の神秘すらも感じさせるその狂気の深淵に触れることには、汗と雨と泥にまみれたこの肌に焼きつく、爆発、燃え盛る炎に血の赤よ。 ☆3.8

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲

数百匹の犬たちが少女とともに無人の都市を疾走する壮観。愛なき世界からの逃走。そして人類との闘争──。 犬版『猿の惑星』との触れ込みに偽りなし。虐げられし弱き者たちの反乱をエモーショナルに活写する。 CGでもアニメーションでもなく、実際にトレーニ…

マンイーター アンレイテッド・バージョン

パニック映画の金字塔『ジョーズ』に倣った“見せない”恐怖演出が秀逸。一人、また一人と見えない敵に消されていく静かなスリラーは、やがて姿を現す巨大ワニの全貌と、その人喰いの残酷表現を一層際立たせて見せる。 音を立ててはいけない張り詰めた攻防から…

グレムリン2/新種誕生

日陰に生きる者たちの怒りがモンスタームービーに仮託されるかのように、第四の壁を超えてスクリーン狭しと大暴れするグレムリンの姿にはしばし胸のすく思いも抱かせる。 やりたい放題、欲望のままに歌い騒ぐ自由への謳歌、ともすれば無邪気なバイオレンスへ…

グレムリン

お夜食くれなきゃイタズラしちゃうぞ!きよしこの夜を襲う、“小悪魔”たちの大行進。 ギズモがかわいすぎるのはもちろん、凶悪に暴れまくるグレムリン軍団もクセになるキモかわ。フィービー・ケイツの『初体験/リッジモント・ハイ』とは違った清楚な華やかさ…

ビューティフル・デイ

陰鬱な暗黒に差し込むロマンティックなる光の映像詩。現代版『タクシードライバー』にして『ドライヴ』に近似する趣き。その憐れ、危うさ、美しさ。孤独の沈黙、暴力のグロテスク、ノイジーでエレクトリック、静謐で混沌としたジョニー・グリーンウッド(レ…

セントラル・インテリジェンス

これも一つのワンスアゲイン。学生時代に人生のピークを終えてしまった男が、つまり彼にとってのドン底から、もう一度這い上がって自分自身への誇りを取り戻すまでの通過儀礼。 変わらずして変わる。過去、そして現在の自分を受け入れてこそ未来は拓けるとい…

パーティで女の子に話しかけるには

人生とはタナトスとの相克。パンクとはブルースの最終形ならば──その轟音と叫びの不協和音こそ、怒れる若者たちの哀歌。虚無に抗う生への欲動だった。 それが恋の衝動に違いないなら、ボーイミーツガール。恋は、世界のすべてを変える。世界のすべてを敵に回…

パーフェクト・トラップ

スケールアップした分、知恵と工夫が失われ、逆に無個性に小さくまとまってしまう続編ものにありがちな罠。へたな物量作戦が緊張感を奪う。スリラーなきホラーが、ともすればトーチャーポルノを喚起する普通のスプラッターに変容してしまうのならば、残念な…

ワナオトコ

金庫破りvs.シリアルキラーというワンアイデアに終わらない、恐怖表現への「匠の技」が光る。 『ソウ』続編シリーズの脚本家コンビとあって、いわゆるソリッドシチュエーションなる現代的な舞台設定は踏襲しながらも、その趣きはむしろ一昔前のスラッシャー…

アウト・オブ・タウナーズ

ユーモアこそが、人生の悲劇を喜劇に変える知性である。 『ハウスシッター』以来の二度目の共演、SNL出身のスティーヴ・マーティンと、“永遠”のコメディエンヌ、ゴールディ・ホーンがその天才とチャームを遺憾なく発揮する、おとぼけドタバタ全開のノンスト…

ハウスシッター/結婚願望

一から十まで作り話。映画という嘘を嘘と知って一喜一憂する可笑しみ。 しかめっ面で、深刻ぶって滔々と語る真実ほどつまらないものはない。楽しさのない正しさなんて夫婦の痴話喧嘩と同様、犬も食わない。嘘から出たまこと、虚構に見出される真実にこそ人は…

バード・オン・ワイヤー

“忘れたくても思い出せない”──そんな恋のトラウマが人生を狂わせる。しかし狂気の沙汰にこそロマンティックは輝く。 アクションスターの演じるコメディ、コメディエンヌが魅せるアクションへの瞬発力。ポニーテールが揺れる。絶叫が轟く。メル・ギブソン×ゴ…

潮風のいたずら

ハリウッドきってのおしどり夫婦(事実婚)として、今も変わらぬ愛を育むゴールディ・ホーンとカート・ラッセル、若き日の共演作である。 『スイング・シフト』が彼らのロマンスのきっかけならば、その熱情を「家族」という次なる愛のかたちへと結実させる。…

ラッキー

諸行無常。色即是空。無に始まり無に帰するまで続く、ただ続いていく日々に神はなく、ゆえに意味もなく、何一つの永遠もない人生への悟り。あてどない旅の終わりに彼が辿り着いた微笑みのなんと、なんと穏やかなこと。どんな言葉も追いつかないほどの、その…

こもりびと

「でももし、ひきこもりの人がいなかったら誰が思いやりや優しさよりも効率ばかり求める社会にNOと言えるのかな…」(松山ケンイチ) 優しさだけでは人を愛せない、優しさだけでは生きられない世界で。 不自由で不寛容な「普通」ばかりが幅を利かせる、正常が…

アス

ドッペルゲンガーものの潜在的な恐怖に、ボディスナッチャーものとしての寓意が重なる。ジョーダン・ピール、『ゲット・アウト』に続く社会派スリラーは、1986年を起点に現代に広がるアメリカの“影”、延いては世界を覆う構造的な格差社会の闇を描き出す。 「…

ANON アノン

ディック的なSFノワールのいくつもの“贋作”。あるいは繰り返し複製され、警鐘を鳴らす監視社会への恐怖。 モノトーンに抑えられたアンドリュー・ニコルの近未来像、その造形美はよりスタイリッシュに、より無機質に流れる情報の羅列。セックスも暴力もデータ…

地球に落ちて来た男

現在と過去、現実と回想、あるいは捏造された郷愁がアメリカの原風景に混濁する映像美。対位法的な音楽に分裂する情緒。その酩酊感には、“全てが揃っているのに何もない”、物質主義ゆえの享楽主義に溺れる人類の悲劇が重ねられる。 そんな悲劇の、得てして美…

セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ

アンチハリウッド、反商業主義のメッセージを担保する“ゲリラシネマ”という名の映画革命。あるいは映画テロリズム。原理主義者たちの狂った映画愛に発露するセックスや暴力への偏執は、その恐怖や痛み、過去のトラウマを背景とする怒りの“ヴィジョン”を映し…