散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

希望のかなた

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善を為すために法を犯さねばならない現実。
“平等の国”が抱える欺瞞。蔓延る人々の不寛容。リアリズムとは、机上の論理で自国の富を囲い込むばかりの狡猾さのことではなかったはずだ。手を差し伸べれば、その手に温もりを知ったものを。凍てつく刃を突き立てる者たちは、その肌の体温も、滴る血の色も知り得ないまま。人を人とも思えないまま。愚かなほどに滑稽な無知が、さらなる偏見と分断を煽る。

正しさとは少し違う、優しさ。人間らしさ、ヒューマニズムにこそ市井のリアリズムを、そして“希望”を描くカウリスマキ節はこのトランプ時代において尚も健在。「港町3部作」が「難民3部作」に変わらざるを得ない複雑な社会情勢においても、その哲学は揺らぐどころか一層強かに人々の心を打つ。
ブルージーフィンランド歌謡が、哀愁のメロディに不屈のロックンロールを響かせる。笑いもせず泣きもしない無表情の表情が醸し出すユーモア。そのポーカーフェイスに隠された悲劇性を、優しく包み込む“街のあかり”──。いつの時代も不景気な世の中で、きっと誰かの不遇な人生を照らし続ける不変のまなざし。それは願いだ。


☆3.7