散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-19から1日間の記事一覧

太陽に恋して

風の吹くまま、運命に身を任せて。はじめての喧嘩もマリファナもハニートラップもカーチェイスも車泥棒もトランクの死体も、ぜんぶぜんぶロマンティック症候群。“幸運”を待ち焦がれて、約束の言葉を用意する僕たちの。偶然を結んで必然とする物語を旅する僕…

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

そこにある少女の命と、起こり得る巨大なリスク。今と未来、この不完全な二項対立にジャッジを下す人間のエゴ。 人命は地球よりも重い。だが、地球よりも重い、文明の発展と調和。今、この世界を支配するリアリズムという名の詭弁である。 ☆3.7 (2018/05/25)

ギフト 僕がきみに残せるもの

遺言だったはずのビデオレターが、今なお続く戦いの記録だったと気付いた瞬間、心臓が震えた。無意識のうちにドラマチックな悲劇を求めてしまっている自分に、愕然とした。改めて。終末の美に囚われ過ぎている。 どれほど苦しく、絶望の淵に立たされる日々が…

山の焚火

集団を作って人は山を下りた。宗教的な結び付きによって社会は形成され、社会には神的なるルールが課される。複雑なコミュニケーションに言語は発達し、人は万物を解釈することにより人間たらしめるようになる。 人里離れたアルプスの中腹に、聾唖の“坊や”と…

ディストピア パンドラの少女

人類が700万年もの歴史で獲得した知能は、ただ一つ、種を存続させるための進化。生存競争の成果である。人類とて現在でも、人の皮を被った獣であることに変わりはない。 食物連鎖の長に君臨したところで所詮は獣。そして獣は、46億年を数える地球の“ライフサ…

ジェーン・ドウの解剖

土の中で眠る、歴史に埋もれた数多の大罪。生贄に捧げられる“美しい死体”たちの一端を目前にする我々は、その都度、悪夢に身を投じるのもやぶさかではないのである。傍観者としての贖罪の意思であろうか。そんなことで背負い切れる業でもなかろうが。 ☆3.9 (…

インビジブル・ゲスト 悪魔の証明

信用できない語り手がこの世界にまた一つ謎を創り出す。謎、それ自体に人々は魅せられる生き物だ。 これはミステリー“映画”である。疑うことよりも、読み込むことよりも、まずもって見ることにより真相への最短ルートは得られる。細部に気を配って深層に迫る…

サンタ・サングレ/聖なる血

少年が自立を果たすまでの道程には、高い壁ともう一つ、深い霧が立ち込めている。 強権的な父性の抑圧に打ち勝つか、あるいは逃れることができたとして、それよりもやっかいな母性の抑圧。それは互いに愛し合うがゆえの呪縛に、少年は縛られる運命を必ずや辿…

テシス 次に私が殺される

見てはいけない、という警告を無視して。こっそりと陰の方を覗き込もうと様子を窺う彼女もまた、陰の向こうの暗闇にすでに見張られている。カメラの向こう側に潜む、無数の目に。飽くなき大衆の欲望に応えるように、闇の奥へ奥へと導かれる。陰に影が重なり…

禁じられた二人

僕は君。君は僕。あなたは私。私は女。 考えることを、夢見ることを、同じ気持ちを、同じ快楽を、感じ合っていたい。言うなれば、自分を捨ててしまいたい。二人で一つに繋がりたい。僕と君を隔てるものなら取り除いて、二人だけの秘密を抱えて、世界を二人だ…

あの日のように抱きしめて

個人が個人としてではなく、国家や民族によって分断、同一化される戦争。迫害の犠牲となり、「顔」が失われることは、他人との異同、または他人からの眼差しによって確立されるアイデンティティーが奪われてしまうことを表す。 過去に戻ることもなければ前進…

変態小説家

たった一つ、確かな、“死の体験”に向かって進む人生では、夢や恐怖や幻想の方にこそ本質がある。それを“ストーリー”という必然性の中に紡ぎ合わせる者の、空を見ず、土を足で踏まない日々のパラノイア。 心の傷を投影する芸術活動に、つかの間の自由を得る。…

MAY -メイ-

変わり者と疎まれ、日陰に生きる孤独な人々のために、ホラー映画などという好奇なファンタジーは存在するのだという基本の有り様を、この作品は思い出させてくれる。 恐怖に慄く叫び声は、誰かの「私を見て」という切実な心の叫びに呼応するものなのだ。 う…

レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで

愛の痕跡を拾い集めて。 枯れかかった花に水をやろうとしても手遅れだった。とはいえ、遅かれ早かれ花は枯れるものだ。永遠に咲き誇っているかのような花があればそれは造花だ。一度も花を咲かせることなく萎れていくものだっていくらでもある。しかし、そも…

天使とデート

どうしようもない僕に天使が降りてきた。あぁ、翼の折れたエンジェル。宙から堕ちてきたエマニュエル・べアールが僕にキスをせがむ。 大人への成長を描く『E.T.』のようなジュブナイルの傑作も勿論外せないが、現実逃避するように、子どもじみた妄想を無批判…

もしも君に恋したら。

私の友達。私の家族。私の仕事。私の人生。でも、「私」って何だっけ。忘れそうになる。複雑に込み入った人間関係と役割の中に埋没していく気がして不安になる。だから時々見つめ直さないと、私を。 彼と彼女は同じくらいの背丈で、向かい合えば見つめ合う高…

トゥー・ラバーズ

なんと厭わしい。だめだ、こんな映画は見ちゃいけなかった。知らないことになっている真実が眼前を覆う。 惨めで、醜くて、それでも不器用で切実な純情が愛おしいなんて、そんな眼差しは徐々に薄れ。まぁ、なんて気色の悪い営みなんだろうと。 愛の不毛を経…

ヴァン・ゴッホ~最期の70日~

「痛みを前に人は孤独だ」 現実に打ちひしがれる日々こそ、芸術の美を享受することができる日々であるという悲しい真実。芸術家にも不幸を望み、その残骸の恩恵にあずかろうとする。 こんなことは久しぶりだ。夢を見るように映画を見て、虚構を内在化してい…

ポランスキーの 欲望の館

芸術家が社会的に糾弾された時の、作品と人格は別だという議論にはいつも違和感があって。芸術と人間性は不可分なのだから、そういう芸術にこそ共鳴してきたのだから、観客の一人として、芸術と共犯関係を結んできたことへの罪悪感を無しにするようなことを…

FEAR X フィアー・エックス

ぼやけた視界に焦点を絞って、ズームインしていくカメラが必ずしも核心を捉えるとは限らない。 闇の向こうにはただ闇が続く。どこからか光が差し込む、そんなことはない。絶望なら果てはない。深まるほどの大層な謎もなければ、納得のいく真相にたどり着くこ…

ドリームスケープ

人間のあらゆる快楽は変性意識に導かれる。眠りに落ちる寸前の半覚醒状態もその一つで、この時むき出しの潜在意識を刺激して、日々のストレスを解放することができる一方、記憶に蓄積されたトラウマを強化してしまう危険性も大いにある。 脳と身体で半分覚醒…

テレーズの罪

小鳥のさえずり、松林を揺らす風、自転車、鈴の音。手漕ぎボートに伝わるせせらぎ。駆ける少女の足音、笑い声。羊の鳴き声、轟く銃声、ヤマバトの死。 静謐な環境音の重層を前奏にして、クロード・ミレールの遺作は、愛のない結婚を“演じる”女の裏腹にある多…

パーティ★モンスター

セス・グリーン、クロエ・セヴィニー、マリリン・マンソンと、奇特な存在感がドラマに渦を起こしかけるのを、マコーレー・カルキンの軽薄な演技とMTVライクな語り口が拒絶してしまう。 めくってもめくっても、無味無臭。偏見と嘲笑を撒き散らしながら、一方…

ハードコア

映画と呼べるのか否かという疑問に対しては、これは映画でしかなかった。FPSゲームや来たるVR時代が指向するものとは似て非なる、やはり旧来の映像体験に違いはない。 視界の限定がそれを分ける。 しばし、赤の他人のありもしない架空の人生に拘束される。あ…

ボディ・ハント

たった一つの過ちに十字架を背負うこととなった兄妹の悲劇。 ホラーにするもサスペンスにするも、帯に短し襷に長しなシナリオである気もするが、結果、前者に仕立てる要素が大きな音で驚かす一点ばりというのはあまりに稚拙。ばかりか、そのしつこさに辟易と…

ナタリー

ドレイ・トトゥと言えばチャーミングといった具合で、彼女の映画に恋をしないことはない。一緒に過ごす時間に、知り得ない人生を想うことを恋と言う。そのことをまさしく体感するあっという間の2時間であり、そして消えることのない恋の余韻なのである。 幸…

がんばれ、リアム

好きなものを何でもかんでもランキングしようとする“リスト的思考”には、当然、悪い出来事も年表化して網羅しておこうとする記憶術が備わっている。ある時代のある地域を物語の舞台に選んだなら、歴史に埋もれた市井のリアリズムを描かないことには主義に反…

クレイジー・ナッツ 早く起きてよ

エド・ウッドが遺した脚本を再構成して映像化するに留まらず、氏の映画愛こそを画面で語るということに成功していると思う。 サイレント映画へのオマージュを捧げるように、実直にカメラワークやカットの繋ぎを機能的に駆使して、空間の移動や時制の変化を操…

愛の記念に

「生と死に戯れたが、心は清らかだ」「無分別な僕達は生と死を玩具にしたのです」 無分別でない恋は“本当の恋”にあらず。エロスの混沌に愛を求め続ける生。 数行の台詞と、次、次へと切り替わるカットに捉えられる少女の憂鬱と片えくぼの微笑みとで、愛され…

ソフィー・マルソーの刑事物語/ポリス

遊ぶ男と遊ばれる女。だけど、惚れさせるのは女で、もてあそぶのも女。愛を知らない男に与え、そして奪い去る女の、愛の復讐。 孤独を免れない男たちの暴力と渡り合う女たちの嘘が、子どもじみた恋の浪漫を幻滅させる。男と女の常のこと。 ☆3.8 (2018/04/23)