散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

サンタ・サングレ/聖なる血

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少年が自立を果たすまでの道程には、高い壁ともう一つ、深い霧が立ち込めている。

強権的な父性の抑圧に打ち勝つか、あるいは逃れることができたとして、それよりもやっかいな母性の抑圧。それは互いに愛し合うがゆえの呪縛に、少年は縛られる運命を必ずや辿るのである。

異性でありながら、性愛によって破綻することのない愛は、母親と息子をいつまでも固く結びつける。
深く、永い、受容の愛は相手を半身に宿すようになり、やがて自我は崩壊し、私は私を持たない“透明人間”へと成り果てるだろう。

彼を救えるとすればただ一人、少女の存在である。
少年はいずれ、母性の愛か、他者性への恋かという二者択一に行き当たるものだ。そして後者の道を辿り始めたとき、はじめて自分の人生を自立させることができる。

性や死やフリークなイメージの洪水に惑わされがちであるが、ホドロフスキーの映画はいつも至って根源的なテーマに着地する。


☆3.5

(2018/05/18)