散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

わたしは、ダニエル・ブレイク

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合理化の号令のもとに、人を人とも思わない、非人間的なシステムが世界中を覆い尽くさんとしている。

老境のケン・ローチが引退表明を撤回してまでも作らねばならず、カンヌがパルムドールを与えざるを得なかった。現代のリアリズム。格差の固定化に分断される社会は、イギリス特有の階級社会に限らず、あまねく世界の喫緊の課題として普遍性をもって語られる。

ますます互助の精神は薄れ、空洞化する共同体。セーフティーネットはアリバイ的に存在するばかりで、抜本的に格差を是正する政策など到底、望み得ない。むしろ格差の維持、拡大こそが、為政者並びに1%の富裕層が目的とするところだと思わざるを得ないような政治状況が世界中に蔓延している。

そして、その目論見がほとんど成功してしまっていることに気付く人々はそう多くない。
これが現実、それが現実と、現状追認を繰り返し、自らが搾取構造の下層に押し込められた奴隷状態にあることの理不尽を知る由もない。あるいは認めようとしないのは、惨めな自分の姿に心が折れてしまうからか。気力、体力、もう何もかも奪われた上に、尊厳さえも奪われたことを認めてしまえば、もう生きていけない、がんばれない。

そんな愚直な、勤勉な労働者たちの犠牲の上に、この“豊かな”時代は成り立っている。

巨大で複雑なグローバル資本主義とやらを前に、庶民の反骨心などまったくの無に帰する。


☆3.8