散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-24から1日間の記事一覧

ザ・フレーム

この人生は筋書きのあるドラマ、創られた物語ならば、どこかで誰かに覗き見られているに違いないという強迫観念、あるいは孤独が癒されるなら、誰かと繋がっていられるのなら、時空を超えた向こう側の世界であってもいい、どうか私の人生を見ていてほしいと…

リヴォルト

“生きることは戦い、戦うことが生きること”しばしその戦いをフィクションの主人公に託し、現実からの逃避を夢見る映画鑑賞にあっては、人類滅亡の危機くらいの振れ幅があってちょうどいい。 無駄にウェルメイドなルックでオリジナリティの欠片もない量産型“…

クラウン

『スパイダーマン ホームカミング』、『COP CAR コップ・カー』より遡って、ジョン・ワッツ長編デビュー作においても、父性と対峙する少年の成長譚をモチーフとするその作家性は一貫しているが、他二作に比べ、少年としては最も幼く非力で、乗り越えるべき父…

悪魔の陽の下に

無力な、無意味な人生の実存に迷い、神の道を外れ、絶望の淵をさまよい歩く人間の、沈黙の叫び。死ぬまで終わることのない試練と孤独の闇に陽の光が差し込むならば、悪魔も救いの神となろう。 内なる悪を知ることで再び善は認められ、やはり愛へとたどり着く…

さらば、愛の言葉よ

“考えないということが思考に悪影響を及ぼすかどうかは分からない”そう、本質は直感によって掴み取ることができるのである。 “メタファー”とは一対一に符合する関係を見出すことではなく、その隠喩表現の革新性を凝視することそのものに豊かさは保たれる。 …

ウエストワールド<セカンド・シーズン>

自由という名の牢獄が人間を自由意志の不能に直面させる。生存本能と欲望の狭間に、驚くほど単純なコードで埋め込まれた性格と「物語」とその役割の中で、与えられた選択肢もまた創られた幻想に過ぎないとすれば。愛と自尊心に揺れる人間性もまた再現性の認…

RAW〜少女のめざめ〜

世界の認知を改めさせられる衝撃の映画体験。フランスより、ギャスパー・ノエ以来の鬼才現る。トビー・フーパーやデヴィッド・クローネンバーグからの影響を血肉とする若き女性監督。女性自身でなければ描き得ない、少女の思春期における変容を剥き出しの生…

アトラクション -制圧-

平和への思いを固く誓いながら、一方でアンビバレントに世界が一変するカタストロフを心待ちにしている自分がいやしないか。隕石雨の一つでも堕ちれば。地球外生命体とのファーストコンタクトや、あるいは宇宙“戦争”なんて勃発してしまえば。町は装甲車が行…

Ink

眠りに見る夢は夢ばかりではなく。現実の裏側にもう一つの世界は広がる。そこでは本来あるべき、もう一人の自分も存在する。 そんな中二病的妄想をあたかも形而上学的なサイエンスフィクションであるかのように仕立て上げる“ストーリーテラー”。その一編によ…

タイムシャッフル

確定された未来に向かって、たとえそこには自由意志がなかろうと、この現在に実感を得ることを生きるとする他ない、むしろ無限に開かれた可能性など自らの想像力の範疇において放棄したがる人間という種が迷い込むタイムパラドックスの袋小路。 時間には逆ら…

LOOP/ループ -時に囚われた男-

この記憶は何者かによって作られた偽の記憶であるという可能性を、一体誰が否定できようか。記憶の連続性が一個人の主体を維持する根拠であるならば、その記憶が改竄されうる代物であったとき、この世界が大いなる存在によって試されるシミュレーションの一…

スーサイド・ショップ

人生は素晴らしいも、人生は残酷も同じ。バナナの皮に滑って転げる人がオカシイのも痛々しいのも同じであるように。ものは見様によって悲しくも愉快にも、美しくも映るのが人の世である。 灰色の街で、悲観に暮れる人々にとって“死”は最後の最後に残された希…

はじまりへの旅

常識を疑え。権力に抗え。自分の言葉を持って。道なき道を行け。 "Power to the people""Stick it to the man" 不当で病んだ最低の世の中に、反逆の道を示してくれるはずの“父”はもういなかった。「いまを生きる」ということの本当の意味を問いかけてくれる…

マザー!

ノアの方舟を描いた前作に続いて、“楽園”、“黙示録”と口にされれば聖書をモチーフとした箱庭表現であろうことくらい察しはつくが、その定型には愚かな人間への愛憎を軸に、様々なメタファーを入れ替えることも可能である。 神経症的な、ポランスキー的な悪夢…

デス・レース

すっかり毒抜きされた子供騙しのまやかしで、あの歴史的問題作『デス・レース2000年』のリメイクを謳うのはもはや冒涜の域。陳腐化され切ったビデオゲーム的想像力の幼稚性は、オリジナルの確信犯的な露悪表現のそれとは似て非なるもの。既視感しか残らない…

ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ

「愛は簡単じゃない。だから愛なんだ」失って、やっと初めて気付けること。障害を乗り越えてこそ手に入れられるもの。 グローバル都市ならでは、つまりある意味でローカルな恋愛事情を題材にしながらも、誰もが僕たちの“ロマンス”に覚えのある普遍的な恋愛あ…

スプリング・ブレイカーズ

ロックンロールの敗北から四半世紀あまり。EDMの巨大産業に踊らされる現代の若者たち。21世紀型退廃。その享楽主義はモラトリアムに許された期間限定の現実逃避に過ぎない。資本主義に懐柔され、公権力の監視下で、去勢された不良たちのド派手なバカ騒ぎが虚…

プレシャス

彼女の置かれた境遇にはまるで似つかわしくないドリーミーな光彩で語られるのは、どうにも救いようのない不幸に見舞われた人間が何とかすがっていられる妄想と、地獄のような現実とが混濁した情景だろうか。 暗闇にこそ差し込まれる光に人は目を奪われる。一…

フォーリング・ウォーター シーズン1

謎が謎を呼ぶ無秩序なイメージの連続。リンチ的ギミックの散りばめられた幻想は、夢の中に生きる夢見人の無意識に深く通じ合う。解かれることのない謎が夢を醒ませまいとすれば、永続する浮遊感に身も心も癒される夜の帳。明滅する電気は、ありし現実の反射…

ノー・エスケープ 自由への国境

折しも中間選挙に重なるようにして押し寄せるキャラバンに対し、トランプの「忠実な愛国者作戦」により派遣された武装兵士たちは有刺鉄線の壁を築く。そして、暴力で溢れる祖国を逃れ、ただ生きるための場所を求めてやってきた旅人たちに銃口を向けるのだろ…

タイピスト!

哀しげに遠い目をするロマン・デュリスと、今この瞬間に瞬くデボラ・フランソワの瞳が、この恋の行く末を語り終えている。 古き良きロマンティックコメディへの憧憬が今の時代に映し返したのは、女性の自立心と、彼女らなしには生きる意味すらままならない男…

アナイアレイション -全滅領域-

無限に模倣を繰り返し合えば、やがて全てが同一化された完全なる調和は生まれる。そこは時間や方角までも全てが消滅した0次元か、あるいは全てを同時に内在する高次元か。人間の知覚する限りにおいては何れも死も同じ領域である。 膨張の果てに、ある極点を…

On your mark

過ぎし日の僕ら。映画は短ければ短いほど理想的だと友は言った。長ければ長いほど、叶うものなら終わらない映画を見ていたいと僕は応えた。その両方を実現する、ほんの7分間のプロモーション・フィルム。まごうことなき短編映画だ。 世界の真実を穢れなき少…

夢と狂気の王国

映画的情緒が淀みなく流れるように、前後のフッテージが螺旋的に繋がって響き合う構成と編集の巧さに舌を巻く。 数あるスタジオジブリのメイキング作品に嘗てなかった、記録映像の枠をはみ出してドラマを紡ぎ出してしまう初めてのドキュメンタリー“映画”。あ…

ラセターさん、ありがとう

「ミヤザキ-サン!」と呼び掛ける度にハグを求め、肩に腕を回し、ベタベタと過度なボディタッチをするジョン・ラセターの姿を見ていると、たとえそれが敬愛の表れだったとしても、例のセクハラ問題を想起せずにはいられないことが、まずとても悲しいことだっ…

「もののけ姫」はこうして生まれた。

記号的、またの名をマンガ的な表現には殺意を抱いて忌避する。類い稀な観察眼と空間認識能力を有し、天才と呼ぶ他ない神業なる“線”で象られるキャラクターには、生きた人間としてのリアリティが吹き込まれる。あるべきリアリティへの追求が妄想の世界を支え…

もののけ姫

長年テレビ台の左端を陣取るVHSで、時に高画質を求めてレンタルDVDで、そして金曜ロードショーで繰り返し放映される度に何度となく観るような、そんな映画は『もののけ姫』の他にない。いつ観ても決して感動が薄らぐことはなく、記憶に刻み込まれた全てのセ…