散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

タイピスト!

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哀しげに遠い目をするロマン・デュリスと、今この瞬間に瞬くデボラ・フランソワの瞳が、この恋の行く末を語り終えている。

古き良きロマンティックコメディへの憧憬が今の時代に映し返したのは、女性の自立心と、彼女らなしには生きる意味すらままならない男たちの憐れ。

純朴で健気で、ちょっと不器用なくらいの女の子が愛しくてたまらないのだ。しかし愛し方を知らないがゆえに愚かなゲームに興じる男たちは、少女を麗しの“マイ・フェア・レディ”へ仕立てることで悦楽を得る。
それが恋だとしても気づかずに。愛の言葉も知らないものだから。

少女が夢に向かって狭き門を叩いた頃の、リズミカルな“指音”に心躍らせた日々も昔。女の表情を見せ始めた彼女の周りを、ノイジーな喧騒が包む。
蕾が花を咲かせるのはあっという間のこと。高嶺の花を遠巻きに見つめて、ならば彼は立ち去るのみ。
男のウソは自分のためだ。

「ジュ・テーム」「ティ・アーモ」「テ・キエーロ」「セ・ラポ」「イッヒ・リーベ・ディッヒ」愛してる。

それは彼女たちの言葉。そんな言葉の意味も知らない男たち。憐れみの眼差しを向けられるべきはいつも彼らの方だった。

恋に不作法な男たちが立派に紳士たる愛を手に入れるまでの待ち焦がれ。ロマンティックは彼女たちのものだ。


☆4.4

(2018/11/06)