長年テレビ台の左端を陣取るVHSで、時に高画質を求めてレンタルDVDで、そして金曜ロードショーで繰り返し放映される度に何度となく観るような、そんな映画は『もののけ姫』の他にない。いつ観ても決して感動が薄らぐことはなく、記憶に刻み込まれた全てのセリフはその時々で少しずつ違う響き方をする。大人になってからもそう。
やっぱりどうやらそのようなのだ。本作こそが、私の映画原体験。あるいは少年期より生涯にわたる思想形成の原点とも言うべきか。“曇りなきまなこ”に叩きつけられた、この世の混沌の原風景だ。
勧善懲悪に回収できない人間の、美しく愚かしい物語は、男と女に交わされるエロス、ないしは愛への目覚めを繊細に醸しながら、血と肉片のグロテスク、死屍累々の残酷絵図を丹念に描く。
幼心に焼き付いた生と死の生々しい質感がそれであった。
人の世は殺戮と憎悪の“苦界”。さらに自然破壊なくしては生きられない人間の、生まれながらの業とも言うべき疵。
「人間なんか大っ嫌いだ」しかし「そなたも人間だ」という悲劇を内包しながら、しかしそれでも、穢れ塗れながらも「生きろ。」なぜなら「そなたは美しい」という唯一にして絶対のメッセージが色褪せることなく木霊する。
生きる。
それは呪いのような定めの限り、収まりつきっこない葛藤の限り、いつまでも共に息づく映画に違いない。
☆4.9
(2018/10/28)