散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

灰とダイヤモンド

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オカリナだろうか。『地下水道』から木霊するその音色はどこからともなく、辺りを舞う小鳥のさえずりとハーモニーをなして平和を歌い、礼拝堂に花を手向ける少女を迎える。
陽光の降りそそぐ草むらで気持ちよさそうに寝そべる主人公は若い青年。束の間の休息を終えるやいなや、合図と共にサングラスを掛け直した彼は、機関銃を手に起き上がる。

大戦は終結するも闘争は続く。
戦争のきずが同胞たちを分断する。
親子、兄弟までも引き裂く争いにどれほど確かな大義があろうか。絶望を見た人々に再び混迷の世を強いる神とは一体、何様であるのだろうか。

こんな国で信じられるものなんてと、ニヒルな男に思いがけず芽生えてしまった一つの純情。願うだけ悲しい、悲しい思い出が後に残るだけと、報われない恋を遠ざける娘との。儚くも過ぎゆく一夜の物語。
はじめてこの人生を恋い焦がれた夜だ。

例によって彼もまた、敗残者の山に埋もれていく。反抗する若者たちは挫折する定めなのである。
結末はいつも同じ、灰のように散り積もる敗北の歴史。ただその底深く、“ダイヤモンド”のごとく、映画という名の「芸術」に結晶する若者たちの見果てぬ夢は、後世に続く同志たちの暗がりを照らし続ける輝きとなる。


☆4.4

(2018/10/20)