散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

南極物語

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ムチで打たれ、鎖に繋がれ、挙げ句、最果ての地に置き去りにされても尚、再会を待ちわびた飼い主の元へ、猛然と駆け寄る“物言わぬ”友人たち。

健気で従順で、ゆえに愛らしくそして憐れな犬よ。

「タロ」そして「ジロ」と。彼らを呼ぶ健さんの、声にならない声と、叫びに、言葉にならない斬愧の念と無上の愛が代弁される。

令和の時代に見れば、どうしたって動物虐待すれすれの演出が気になって仕方がないし、むしろ映画史的にはモンド映画にも近い手触りすらを覚える。まさに犬の従順さに甘えた都合のいい創作。ただ、だからと言って、往年の大ヒット作を古き時代ごと否定するつもりはない。

広大な南極大陸に降りそそぐヴァンゲリスシンセサイザーが、人間的な情緒を超えて、野生の咆哮と響き合う神秘性。
人類と犬の共生関係は、欺瞞的な愛の葛藤をはるかに凌ぐ、長い信頼の歴史で結ばれている。そんな記憶の一端にでも触れられることができたなら。


☆3.2