散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-23から1日間の記事一覧

灰とダイヤモンド

オカリナだろうか。『地下水道』から木霊するその音色はどこからともなく、辺りを舞う小鳥のさえずりとハーモニーをなして平和を歌い、礼拝堂に花を手向ける少女を迎える。陽光の降りそそぐ草むらで気持ちよさそうに寝そべる主人公は若い青年。束の間の休息…

地下水道

砲撃、銃声鳴り響く、瓦礫の山と化した廃墟の街並みより、糞尿まみれる地下水道の袋小路に、獣のような叫び声が残響する暗闇の地獄絵図よりもっと残酷な、光に照らされた絶望というものを私は初めて見た。 それらすべては人間の所業。『ソハの地下水道』に差…

マイノリティ・リポート

過去に呪われ、人生の復讐戦に身を捧げる敗残者。囚われの日々が盲目に見させる幻覚にも似た悪夢的なヴィジョンは、悲しいほどに正確に、現実化する近未来ディストピアのそれなのである。 世界は憎悪で溢れている。その決定的な真実に耐え切れない人々は、い…

SF/ボディ・スナッチャー

真の恐怖は何処からともなく音も無く。目には見えない脅威が闇に紛れて忍び寄る。気付いた時にはすでに遅し、変わり果てた世界に対抗する術もなく、ただ逃げ惑うばかりの少数者。 言葉を交わしているようで全く通じていない彼らは誰か。同じ人間のようでまる…

トゥモロー・ワールド

耳をつんざく爆弾、銃声の雨をかいくぐるように流麗に動き続けるカメラの臨場感は、世界の傍観者を黙示録のカオスへあっという間に放り込む。あまりに唐突で、性急な悲劇、絶望に見舞われようとも立ち止まることは許されない、息をもつかせぬアンチヒーロー…

浮き雲

冷たい風が吹き荒む季節に。人を人とも思わないような社会システムの貧乏くじを引かされ、切り捨てられた“労働者”たちの眼差しは、それでもまっすぐと前へ。たとえ弱音を吐こうとも涙は見せず、黙々と、淡々に、一歩進んでは二歩下がるような笑っちゃうくら…

街のあかり

負け犬をとことん追い詰めて掃き捨てるのがこの社会のやり方なら、そうか、そうすりゃいいさ。力には屈しても決して折られやしない心。何も持たざる弱き男がただ一つ立派に持ち合わせている、大層、厄介なプライドさ。 そうさ孤独さ。悲しい男さ。だからって…

バニラ・スカイ

レディオヘッド、アンダーワールド、ボブ・ディラン、モンキーズ、ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズ、スピリチュアライズド、シガー・ロス、そしてポール・マッカートニー……etc.心のサウンドトラックの数々に彩られる残酷な夢、あるいは幸せな悪夢…

28日後...

静寂の黄昏。人の消えた街に、高層ビルのガラス窓に反射する夕陽が光輝く。歪んだレンズに覗く、絶望のはずの世界は白昼夢のように美しい。 世界の終わりで偶然出会った善人たち、疑似家族のロードムービーの得も言われぬ浮遊感に身を預ける。日没に刹那、訪…

ゾンビ/ディレクターズカット完全版

牧歌的なショッピングセンターの館内BGMと一緒に、この映画が描く終末世界こそが、恐怖としてではなく、安らぎのヴィジョンとして脳裏に焼きついている。また、人間の愚かさを皮肉るメタファーとしての“生きる屍”の本義もここにある。 ゾンビは醜く哀れであ…