散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

千と千尋の神隠し

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この世は欲望に汚れし苦界、あるいは絶望の国ニッポンをそれでも生きていかねばならない子供たちへ。残酷なほどの真実を嘘偽りなく描いてしまった国民的映画の、そのメッセージを誰よりも正しく、当事者性をもって受け止められた世代の一人。

幼心より、大人になることを忌避し続けた私の心に最も深く、おそらくは最も古く刻み込まれた映画体験の一つ。全カット、オープニングより全てを記憶するように──あの日、「カオナシはどうしてあんなことをしたと思う?」という母の問いかけに、「寂しかったから」それ以上の言葉を持ち得るように──いつも何度でも繰り返し脳内に思い描いた、恐ろしくも愉しい、奇妙な悪夢的感動の原風景を決して忘れることはない。

すべては思い出せずとも忘れない“愛”の記憶と共に。数えきれないかなしみの向こうに。だから、生きろ。その美しき夢のためにこそ、生きねば。と。


☆4.8