散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

レディ・プレイヤー1

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めくるめく、80'sポップカルチャーの洪水に溺れそうになりながら、その多幸感に満ち溢れる短過ぎた140分。

確認できるだけでも枚挙にいとまがないほどのリファレンスは、そのキャラクター、デザイン、まつわる音楽や台詞から思想に至るまで、映画史を中心として広がるあらゆるエンターテインメントの記憶と符合する。
全編にわたりのべつ幕なしに、自分の映画人生を総ざらいするかのような感動と興奮が駆け巡る。

オープニングを告げる「JUMP」からして、町山解説にも頻出する、"Leap of faith"の言葉を想起し、終幕には、ポン・ジュノがスコセッシから引用した「最も個人的なことこそ最もクリエイティブなこと」というメッセージが重なって見える。

我らが映画の父、今やあらゆるカルチャーの父としてのスピルバーグ自身の存在感さえも。奇しくも、“父性の不在”を描き続けた作家に注がれる現在の名声。そのまなざしに、おそらく気恥ずかしそうに応答するかのように、「ありがとう」を残すラストメッセージに万感の思いがこみ上げる。

それはきっとノスタルジーとは少し違った映画体験。名作はいつも古くて新しい。過去に耽溺するものではない。全速力で逆走しながら未来を切り開いていくようだ──。

そんな娯楽の、現実逃避の先に未来はないなんてことはない。むしろ現実逃避をしなければ辿り着けなかった未来があった。
なりたい自分を夢見ることと、自分が自分であり続けるための物語──映画こそが僕の“オアシス”だ。その仮想現実には、人生を生きることの“黄金”がきっと隠されているに違いないのだから。


☆4.2