散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

キングス・オブ・サマー

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少年は優しすぎるがゆえに臆病で、ぶつかり合うことなく、分かち合うことなく、望むべくして独りを選んだ。

拳を交える友も。
夕暮れに恋を語り合う友も。
大人の真似事や危険な遊びを共謀し、共に火傷する友も。
冒険に出かけることも、友と、丘の上に立って自由を叫ぶなんてこともなかった。

だけど、「彼ら」(今更その関係性の呼称がどうだなんて無粋だろう)の存在がいつだって少年をひとりぼっちにはしなかった。

彼らはいつも少し未来にいた。だからすべてお見通し。つまりは多くを語ることもなかった。

言葉が足らずとも分かり合えてしまえば、やはりぶつかることはない。彼らの優しさが本当の孤独を覆い隠した。

そんな優しい幻想がたった一度、現出した夜の残像──。
天を見上げ、明滅する光と轟音のオーシャンへ手を伸ばせば──
今もスローモーションに再生される思い出の1シーンは、その名も『無題』。永遠に思えたあの夜の多幸感はそれまでの人生、そしてこれからのすべてを肯定するのに十分だった。
人生に問いがあるとすれば、それが答えではなかったか。

叶い得なかったひと夏の思い出に未練などあろうはずもない。凡庸な通過儀礼を経て大人になりたがったことなどあろうはずもない。

現実の可能性よりも、過去を映したあるいは虚構に救いを見出す。
秘密の“王国”に籠城し、似合わない口髭で、ぎこちなく中指を突き立てて。それは子どもじみた反抗を続けているつもり。
反抗、それは彼らに倣ったアティチュード。

失うことを何より恐れる少年は、ただ独り少年のまま。誰もが過ぎ去った季節に留まろうと、青春の刹那を延命させようと、その愚かさを恥ずかしげもなく綴る「散文とブルース」、否「散文とロマンティック」なのだ。


☆3.9

The Youth

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