散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-01から1年間の記事一覧

さよなら、僕のマンハッタン

「最良の者が信念を失い、最悪の者が活気づく」とは詩人イェーツが綴り、今は無きボトムラインのステージにてルー・リードが引用した言葉。 雨の街角に男と女と愛の言葉が行き交う夜。音楽は鳴り続け、踊り続ければ愛し合うロマンティックの住人たちの物語で…

隣人は静かに笑う

時に誤ちを振り返り、醜い世界に目を濁らせては、小さな絶望を繰り返しながら、ささやかな幸せを見つけては拾い集める──生きるとは、それ以上でも以下でもない、そう静かに笑ってやり過ごす日々の延長なのだ。 そんな日常の風景が、“天命”やらと、命の価値を…

ミッション:インポッシブル/フォールアウト

トム・クルーズのスタントが人間離れしていくのと反比例するかのように、齢を重ね、イーサン・ハントというキャラクターは人間味を増していく。 (『ゴースト・プロトコル』以降)チームあっての“スパイ大作戦”という原点に立ち返ってからというもの、傑作続…

ブリザード 凍える秘密

享楽のダンスフロアに明滅するライティング、不似合いなルージュのワインレッド。欲求不満の少女たちの“テンプテーション”が閑静な郊外の町を彩る。 良妻賢母を演じ、あるいは虚飾を着飾ることでしか生きられなかった時代の。吹雪をさまよう幽霊のような、暗…

ザ・モンスター

大嫌い、大嫌い、大嫌い……そういくら唱えたところで憎めっこない。罵り合った後は一人、秘密の部屋で涙をこぼす。煩わしいほどに愛おしい、母と子の切っても切れない関係性。その宿命とも言うべき愛に煩い、眠れぬ夜がまたやってくる。 闇の深い夜と、黒に染…

哭声 コクソン

韓国映画お得意の、あの本当に嫌な手触りのするクライム・サスペンスがまた始まったかと思えば、ゾンビは出てくるわ、エクソシスト的展開を見せるわで、気がつけば予測不能のカオスに飲み込まれてしまっている。超常的なホラーの様相を呈する。 しかしホラー…

50回目のファースト・キス

月曜日がブルーでも火曜日と水曜日が灰色でも木曜日には挫けそうになっても……金曜日、僕は恋をしているのさ! "Friday I'm In Love" 恋はデジャブ──日々、恋し、恋されることの繰り返しに、きっと忘れることのない愛は刻まれるのだから。 きみに読む物語──に…

いぬやしき

心優しき殺人鬼の感傷に触れ、一方、ヒーローの愛が世界を救う。そんな風に衆愚なワイドショー化の図式で、正義と悪にレッテルを貼り分ける駄作。映画化にあたりスポイルされてしまった、原罪的な実存の問い──。 善も悪に同じ、自らの存在価値を実感しようと…

殺意の夏

南仏の田舎町。澄み渡る空に断末魔の叫び、その残響がこだまする。 生まれながらの原罪を背負った少女の復讐の戯曲──。 道行く誰もが振り返り、彼女の後ろ姿に見惚れる。誰も彼も彼女に夢中、夢の中。まるで映画のようにと──腑抜けな男どもを誘惑し、弄ぶ小…

アメリカン・ゴッズ シーズン2

古き神は廃れ、人々は新たな神を生み出したか、あるいは自らが成り代わろうとする──新旧の神々と人間との三つ巴にあるニューエラ。 アメリカ史から全人類史を射程に戯画化しようとする豪快な筆致はさすがの映像美の洪水であるが、皮肉にも、しばしストーリー…

赤ちゃんよ永遠に

遡ること10年か、それ以上。映画にハマり、まずはカルト映画と名のつくものをひたすらに漁っていた頃から。見たい映画リストの1ページ目に記されながらチェックされることのなかった本作を、ついに某所で発掘……! 70年代SFの近未来ディストピア観。自然破壊…

ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界

閉塞感とて美しく──。迫る、核戦争。世界の終わりとあらば、持てるすべての麗句を並べて。 気まぐれな風に髪なびかせて。ロンドンの青白い空気に、赤毛の揺らめくエル・ファニングの等身大を煌めかせる。描画される光と画角の妙はポエティックに、既に過ぎ去…

ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星

『フレンチアルプスで起きたこと』や、ゴダールの『軽蔑』や。 それは前兆なく訪れる悲劇。少なくとも男にとっては。常に試され続けていることに気付きもしない男たちにとって、その変心はまるでホラー。 見渡す限りにそびえ立つ山々が、愛の不毛を見下ろし…

スケア・キャンペーン

嘘のつもりが本当で、やっぱり嘘だけど、本当でした。誰かと思えば、『ヴィジット』のお姉ちゃんでした。 モキュメンタリー、ドキュメンタリー。 リアルがあると思うから、ヤラセなどと吹き上がる。誰もがカメラを携帯する時代、大いなる幻想も機能しなけれ…

ハートストーン

心温まるオフビートな北欧映画にここではないどこかの桃源郷を夢見る節はあるけれど、今回のアイスランド映画はそうはいかない。美しく雄大な自然を背景に描き込まれるリアリズムの筆致は、こちら遠い島国の地方都市にも通ずる痛切な思春期の手触りを思い出…

ありがとう、トニ・エルドマン

人生という悲喜劇を。笑って、歌って、時には人知れず涙を零すこともあるだろう、誰のでもない自分の人生を生きていられますように。 非人間的なシステムの構成員を、演じていたつもりが成り代わっていたということのないように。気がつく間も無く、“大人”の…

アトミック・ブロンド

冒頭から「ブルーマンデー」のビートに心を掴まれ、クールな青の照明に鍛え上げられた背筋が露わに浮かび上がるバックショットでもうヤラれる。文字通り、背中で語る術を体得するシャーリーズ・セロン。彼女に体現される新たな女性像は、昨今のハリウッドに…

バーチャル・レボリューション

曰く、“ブレードランナー 2047”(by 高橋ヨシキ)。 星の数ほど存在する『ブレードランナー』のヘタな模造品の一つに過ぎないが、その世界観への健気な“アコガレ”と“がんばり”には可愛げさえ感じさせる、たしかに特筆に値する出来栄え。概して言えば『マトリ…

セールスマン

おそらく観客の多くは、事件の詳細を誤解したまま犯人の弁明を疑って聞く。それは被害者を取り巻く社会と観客がそれぞれに知る社会との、ギャップに生じる誤解だろう。 とはいえ、恥の文化では共通する日本という国から本作を見れば、登場人物たちの疑心と嫌…

恋するパリのランデヴー

かつては、「君の瞳に乾杯」なんて秀逸な翻訳もありもした。それでも言い尽くされることはない、雷に打たれたかのようなあの衝動について、相応しい言葉を、メロディーを、芸術の中に探し続ける人々のランデヴー。 愛と芸術の国フランス流のロマコメ。であれ…

あなたとのキスまでの距離

『今日、キミに会えたら』のラストシーンを想起しながら──交わらない視線よりも雄弁で、悲痛な、見つめ合う二人の恋の終わりに息を呑む。 過去と現在、理想と現実の間を振り子のように思い巡らす人々の葛藤を映し出す、ドレイク・ドレマスのやはり巧みなカメ…

愛と死の間で

彼女の名は。 運命だとか未来とかって言葉がどれだけ手を伸ばそうと届かない場所で恋をする彼ら──。 死さえ分かつことはできない愛と憎の間で。 ☆3.6

ジュラシック・ワールド 炎の王国

ハモンドの夢──スピルバーグからの贈り物を受け取って育った僕たちのノスタルジーが焼き払われる問題作。ブラキオサウルスの巨体を眼前にしようとも、T-REXの咆哮が鼓膜を揺らそうとも、それだけで感動を得られることができたのも今は昔。恐竜の再誕にロマン…

ロスト・メモリー

お揃いのワンピースとカーディガンを羽織って、全身を白でまとった純真無垢 、汚れなき少女たちの天使のような微笑み。その裏に隠された残酷の扉が開かれるとき、犠牲者の悲しき愛は憎しみを刻み、その傷に永遠の契りは交わされる。 過去は忘れようとも追い…

ハンナ ~殺人兵器になった少女~

映画版のシアーシャ・ローナンと比較しても遜色ないばかりか、無垢に潜んだ動物的な凶暴性を有しては、オリジナルより新たなヒロイン像を演じてみせる──今作のハンナは、瓜二つ、サマンサ・モートンの実娘だそうだ。 「殺人兵器」というアレゴリーが成立しう…

羅生門

土砂降りの雨音に交じって響き渡るけたたましい高笑いの正体は、鬼でもなければ悪魔でもない、他ならぬ人間様の本性に違いない。 人という人を、己の心すらも信じられないこの世の地獄。 誰もが嘘をついているとして、どれもすべてが真実であり得るという。…

キャビン・イン・ザ・ウッズ

ホラーとロマンスの怪奇な融合が、まごうことなき愛の物語に結実する快作『モンスター 変身する美女』の監督コンビ。彼らの長編デビュー作のようだ。 これまたジャンルレスな、予定調和を崩した語り口が心地いい。その構造は物語についてのメタ的な物語の真…

フィフス・ウェイブ

これは『インデペンデンス・デイ』……もしや『宇宙戦争』……さらにはボディ・スナッチャーもの……といったジャンルムービー的なモチーフは流用するだけ。本筋は『ハンガー・ゲーム』や『メイズ・ランナー』と同じく、ヤングアダルト系の王道をこれまたまったく…

ブレインスキャン

ホラー映画の誘惑。 秘めたる残虐性を虚構の“殺人ゲーム”に仮託し、悪魔の囁きに耳を貸す休日の午後。 夢と認識できない夢ならば、現実と何が違うと言うものか。恐怖を見せる疑似体験であっても、その感情は本物である。 ☆3.2

FRANK ーフランクー

誰のためでもなく、自分たちのために鳴らし続ける音楽。どこまでも続く孤独の地平に、各々の抱える絶望を轟音に溶け合わせるバンドサウンド。 そこは特段、音楽の才能なんていらなかった場所。求められるは愛の才能とも言うべき感性──人として、より核心的な…