散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ハートストーン

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心温まるオフビートな北欧映画にここではないどこかの桃源郷を夢見る節はあるけれど、今回のアイスランド映画はそうはいかない。
美しく雄大な自然を背景に描き込まれるリアリズムの筆致は、こちら遠い島国の地方都市にも通ずる痛切な思春期の手触りを思い出させるのに十分。少年の小さな体に押し寄せる感情の波が、五感を通して伝わるかのごとく、愛おしくも振り返るには切なすぎる思い出の1シーンがいくつも、手に取るようによみがえってくる。

初めてのキスとお別れのキス。
幸福の絶頂に絶望の淵は交錯する。
長く厳しい冬を迎える直前の、刹那に訪れる喪失の季節。

この思い出に付け加えられる言葉はそう多くない。

いつもの帰り道。
あいつのいない雪景色。
雨にうたれて歩いた日々を想う。


☆4.3