散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

アンメット ある脳外科医の日記

「記憶を失っても、強い感情は忘れません」 それは、きっと愛。その一瞬の情動が僕が僕であることを、そして僕の今日を明日へと繋げる光となる。 ★4.5

残された者-北の極地-

生まれながらの原罪を背負い、つまり贖罪の人生を歩む西洋的宗教観を、極寒の荒野をさまようマッツ、彼を襲う度重なる受難に物語る。 ☆3.2

ベロニカとの記憶

人の心は、いとも容易く記憶を書き換える。あるいは本能的な自己防衛として不都合な事実を葬り去る。今を生きるための過去との決別。平穏を脅かす激情を排除する。そのこと自体に良いも悪いも評価を下す術もないが、一抹の不条理が胸をくすぶる。 今後、あら…

哭悲/The Sadness

コロナ禍におけるパンデミックホラーの臨場感。加えて、台湾という国が抱える潜在的な地政学的リスクを白昼の地獄絵図に戯画化する。人間のあけすけな本能を嗤うエログロのドロドロ。 ☆3.2

ガルヴェストン

それはまるで走馬灯のごとく、美化されたヒロイズムの結晶。死期の迫ったヤクザ者と娼婦の逃避行、といったよくあるハードボイルドな、無骨なアメリカ的風景を、メラニー・ロランの叙情的な語り口が異色の味わいを醸し出すクライム。 ☆3.2

ポゼッサー

人格の解離性。病的に、あるいはコミュニケーションの常として、異なる関係性によって演じ分けられる別人格への憑依、相克をグロテスクな人体破壊描写に、またはサブリミナルな、ニューロティックな映像美に表出する。肉体と精神の変容を思想する父親譲りの…

ブレスレス

悲しみというマゾヒスティックな感情に溺れる。息もできない、喪失を埋める死への恍惚。薄れゆく意識の中で亡き妻との逢瀬を重ねる、SM嬢との臨死体験に希死念慮を満たす男の欲望は顛倒し、そして目醒める。痛みと快楽の不可分を見つめるハードコアの行き着…

触手

いわゆるポルノグラフィックな“触手もの”の陵辱性とは正反対の、プリミティブな快楽への欲望、性の解放をエクストリームに具現化する。ラースっぽかったり、クローネンバーグっぽかったりもしたが、あれだ、ズラウスキーの『ポゼッション』。こりゃまたヴェ…

ロスバンド

一夜の王を目指し“若気の至り”を繰り返す、誇り高き愚か者たちの音楽が共鳴する。ロックという共通言語のもとに集う、友とは似て非なるバンドという名の共同体。ドラムにギター、チェロ、ボーカルの4ピース、「ロスバンド・イモターレ」の名をノルウェー縦断…

FALL/フォール

実質、90分にも及ぶ超高所演出が本格的に観覧注意の代物。手に汗握るなんてもんじゃない、尋常ではない緊張感の連続に体が、脳が本能的な拒否反応を示す。恐怖とは立ち向かうものではなく回避すべきものであろう。それこそ適者生存の理。安い自己啓発に乗せ…

ニューオーダー

メキシコの政治状況、軍部の腐敗の実態までは知り得ないが、まるでゾンビのいないゾンビ映画のごとく地獄のリアリティーに震撼する。 死屍累々のオープニングより、人を人とも思わない上流階級への極めて辛辣な意趣返し、幸せな結婚パーティーを襲う武装集団…

マチルド、翼を広げ

ともすればネグレクトやヤングケアラーの暗い題材へと発展しかねない境遇を、少女の健気な眼差しとイマジナリーフレンドの声に物語る、ファンタジックな愛の一編。社会的側面からは括り切れない、ある一つの特別な親子の絆を記録する。母に捧ぐ──監督、出演…

ケミカル・ハーツ

脳内では、体の傷と同じように心の傷にも痛みを感じる。体が傷痕を残すように、一度壊れてしまった心は二度と元には戻らない。時間が解決できないトラウマを抱えては、また新しい人生を踏み出すまでの道のりは険しい。 きっと誰もが耐えがたい孤独や悲しみや…

ミートキュート 最高の日を何度でも

ゴミくずのようなこの世界に、意味を与える運命の恋の落とし穴。あるいはロマンティックの牢獄。人生最良の一日が、再び僕らの未来に蓋をする。ピリオドを打つ、このラブストーリーにして完璧なクライマックスを。もう望むべくもない明日を迎えてしまう前に─…

パーム・スプリングス

『恋はデジャ・ブ』を引き継ぐ、タイムループ実存コメディ。 人生に意味なんてないという動かしがたい真実を前に、虚無から諦念へ、その悲観主義の翻った楽観主義が人生をせめて賑やかす。退屈を紛らわす。そして恋をする。一人で生きていくよりは多少マシな…

LAMB/ラム

荘厳なアイスランドの大自然に組み込まれた神話的、聖書的モチーフへの洞察を一笑に付すラストカット。驚愕と溜息のコントラスト。一義的に映画は語るためのものにあらず。その悪夢的ヴィジョンの体感。羊ちゃんかわいい。 ☆3.6

レリック ー遺物ー

忍び寄る老い、孤独、そして私が私でなくなる混乱を主観的に描いたものが同年『ファーザー』であったなら、その言いようのない恐怖を明晰な他者の視点より捉えたものが今作。同種のテーマは『テイキング・オブ・デボラ・ローガン』にも記憶に新しい。 人が誰…

アマンダと僕

あまりに深い喪失を抱えて、それでも何とか日々をやり過ごす。一歩、一歩、ゆっくりとでも些細な日常を取り戻す。夏の暖かな日差しに、草木を揺らす風の心地よさ。新緑に染まるパリの街並み、人々の営みを写す、古き良きフランス映画の趣を残すミカエル・ア…