散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-05から1日間の記事一覧

地獄に堕ちた勇者ども

民族国家主義主張宗派。 「路傍のさまたげになる花は踏みにじらねばならん」 選民思想に非情な論理などなく、詰まるところは幼稚なコンプレックスの発露。ナチズムへの誘惑はいつの時代も、病める心に悪魔は巣くう。権力という麻薬に溺れる、若く純粋で絶対…

あるスキャンダルの覚え書き

他言無用な事柄から、表情の奥に隠した感情まで。人は皆、常に秘密を抱えている。お互いの秘密についてのそれぞれの取り扱いマナーが、他人同士の関係性のカタチを決める。秘密を知る。秘密を「守る」「共有する」「握る」、「尊重する」「打ち明ける」「暴…

バッド・チューニング

アメリカの夏休み。学年が上がる季節。上級生から狙われるフレッシュマン。悪魔が目を光らせる無法地帯で、イニシエーションが始まる。 いつの時代も大差ない、“アメリカン・グラフィティ”の一夜。車、銃、ドラッグなどの小道具に変わりはあるにせよ、およそ…

エンパイア レコード

「ラジオ・スターの悲劇」ビデオがラジオスターを殺したよ。 田舎町のレコード屋さんも軒並み大型チェーンに飲み込まれ、どこもかしこも同じ宣伝文句に同じ商品が並ぶ。元バンドマンのオヤジやマニアックなにーちゃん、エキセントリックなねーちゃんの代わり…

アントニー・ジマー

妻に捨てられ、己を見つめ直す傷心旅行に出発する列車で、向かいの席に美女が座る。恋は、落ちてしまうもの。そりゃ、うますぎる話に裏があることぐらい勘付いてはいるが、ソフィー・マルソーに誘われて、抗える男などいるだろうか。この出会いを運命のもの…

しあわせはどこにある

生活に変化を求める時。悲惨でもないが、何か満たされない日常を憂う時。そんな人々の、しあわせは“ここ”にあることは自明。現実を生き抜くことで精一杯な者に自問している暇などなく、「幸せとは何か?」などと問うこと自体が、平穏に恵まれる限られた人々…

悪魔が夜来る

悪魔と奇跡、二つの波のはざまに溺れる。 誘惑と嘘。幸福と嫉妬。自由と支配。石像と鼓動。死の沈黙と愛の言葉。幻想的なおとぎ話に籠められた、強かな反ファシズムのメッセージ。 ☆3.7 (2017/5/24)

ダブルフェイス 秘めた女

我思う、故に我あることの他に確かなものなどなく、目に見えるものすべては、主観のレンズを通して、世界は如何様にも歪んで存在する。幻影の中で積み重なる記憶。記憶とは、情報ではなく感情の物語。私小説に、真実は探られる。 映画は感情の芸術形態である…

タワーリング・インフェルノ

開始10分過ぎには大惨事の前兆が露見され、そこからはもうずっと不安とスリルがノンストップで押し寄せるパニックムービー。160分もの長編にもかかわらず緊張感が途切れることはない。人間の愚かさの象徴である超高層ビルに火の手は上がり、人々は階上へ閉じ…

扉の影に誰かいる

嫉妬は人を殺させる。その憎しみはそれまでの慈しみを凌駕する。ブロンソン&ジル・アイアランドによるアンジャッシュ式の夫婦漫才は、笑っていいのか嘆かうべきか。その愛憎劇のトーンは、男と女の悲劇的な性を物語る。そして、暗転を告げる“オチ”、まっす…

トランストリップ

この世界の残酷に足がすくむ。生得的な臆病。常に弱者の側。捕食される側、この世界の生け贄なる者が患って当然の神経衰弱。 天敵から身を守るために神経質ならざるを得ない不安ベースの人生では、あらゆる変化が警戒、怖れの対象。あなたたちには何でもない…

出発

ジャン=ピエール・レオと彼女と車と、ジャズと。突然炎のごとく叫べば、笑い出し、愛を囁く。僕達の疾走。疾風の乱痴気。ヌーヴェルヴァーグのごとく。自由を渇望する、シネマ。“夢や嘘 ”心ならずも、相変わらず、うつろな。 ☆3.9 (2017/5/16)

特捜部Q 檻の中の女

感情移入とは恐ろしいもので、物語はどんな悪行にも情状酌量の余地を作ることが可能である。そして観るものを彼らの側へ、善の反対側へ立たせかねない瞬間を作り得る。例外的なサイコパスを除き、どんな人間にも同情の隙間があるという幻想を抱かせる。推理…

デヴィッド・バーンの トゥルー・ストーリー

地平を伸びる一本道に白いワンピース姿の少女が一人歌うイントロとアウトロに挟まれたいくつかの挿話は、実話を元に再現されるフィクション、あるいは創作物に世情を探るドキュメンタリー。侵略、搾取、戦争、洗脳を内包する発展の歴史の先端に立つ我々の。…

アサシン

オモチャの銃が軽々しく人の命を奪っていく。荒唐無稽なロマンチシズムも強引に言ってのける粗雑な時代。間に合わせな空撮のファーストカットに予感される通りの凡作によって、より顕在化する90sエフェクトが懐かしい。 ドラマに干渉するセンチメンタルな旋…

007/カジノ・ロワイヤル

21世紀の「007」リブート第一弾は、未完のダサ(かっこよ)さ。 どうしてもその後の洗練し尽くされたサム・メンデス版と比べてしまっては、その表現の古さに目がいってしまう。無闇やたらなアップ、傾くアングル。メインテーマからして。クール、アートの極…

灼熱の肌

終りが冒頭に断定される愛の経緯において、何ら変哲のない“退屈な美”が恐るべき純度のまま投射される。空虚、反体制、厭世の情緒は若者のそれ。棘は刺さったまま。青は濃く。朱夏の始め頃には、人が人生で享受すべき幸福とその反動を経験し終えていた者の映…

彼は秘密の女ともだち

愛する者との死別ほど悲しい出来事はなく、その喪失感はとても埋め合わせることなど出来ないもの。人生は一旦そこで止まる。再び歩み始めるきっかけは人それぞれにあるとしても、何でもいい、心の隙間に注がれる失ったものの代わりが必要である。大きな穴で…

獣は月夜に夢を見る

その身体への戸惑いや恐れは、“少女が大人の女性へと変貌していく過程”のメタファーであると同時に、異質な存在を迫害する閉鎖的な共同体の反応を示している。彼女にとっての謎は、彼らにとっての脅威となる。未知には何より恐怖が先行するからだ。 暴力や死…