散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

007/カジノ・ロワイヤル

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21世紀の「007」リブート第一弾は、未完のダサ(かっこよ)さ。

どうしてもその後の洗練し尽くされたサム・メンデス版と比べてしまっては、その表現の古さに目がいってしまう。
無闇やたらなアップ、傾くアングル。メインテーマからして。クール、アートの極みを目指した続編に対し、画作りの点で見劣りすると言わざるを得ない。
ゼロ年代と10年代に隔世の感があるのは当然だとも言えなくはないが、「ゴールデンアイ」(95年)のマーティン・キャンベルの再登板によるところの、随所に配置される90年代アクションムービーの趣きが若干くどいほど。

しかし一方で、古臭さに演出される、泥臭く、汗臭いボンドは、人間味のある存在感を有する。
過去になくエモーションを感じられるボンドにだからこそ生じるウェットな心のやり取り。男と女、命を賭する恋愛関係。
キュートがセクシーに勝るボンドガールとの、男純情物語。
歴代のジェームズ・ボンドとも歴代のボンドガールともその意味合いは異質。

心を閉ざし、甲冑を着るダブルオーを確立するまでの類なき愛の序章。原点を再定義したボンド・プリクエル。
これほどロマンスの甘美を感じられ、切なさが刻まれたボンドシリーズを私は知らない。


☆4.1

(2017/4/29)