散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

スパイダーマン ホームカミング

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父性への無邪気な憧憬と、いつか対峙すべきその二面性。少年が一人前の大人へと生まれ変わるために、避けては通れない挫折と超克のイニシエーション。

ジュブナイルの怪作『コップ・カー』の精神的続編とでも言いたくなるような、新鋭ジョン・ワッツによる成長譚としての『スパイダーマン』は、リブートとしても、MCU作品としても新鮮な、'80ジョン・ヒューズ系譜の青春映画のスケールで繰り広げられる異色のスーパーヒーロー映画。

厳密には、“スーパーヒーローになりたい”ギークボーイのご近所物語。ポップな語り口やアニメーションや、日常の生活とシームレスに繋がるヒーロー論においても『キック・アス』や或いは『スーパー!』を思い浮かべたりもするが、両者との決定的な違いはトム・ホランドの体現する明るさ、軽やかさをして一目瞭然。リアルであることをバイオレンスに託すのではなく、王道の人間ドラマとその登場人物たちに等身大を描く。

余談だが、ディズニーが守るべき社是を履き違えたかのような処分を下した例の一件以来、マーベルやアメコミ映画、ひいては映画そのものへの憧憬が消えてしまいそうだった。所詮は、虚構は虚構。物語の理念と現実社会は別次元とでも言うような映画製作の欺瞞を見せつけられるのも何度目かと、無邪気な映画愛はナイーブにも砕かれそうであった。そんな折に見た今作でトニー・スタークは言った。
「君は犬とヤッてしまった。だが悔い改め、生まれた雑種を立派に育てた」
と、こんなヒドい喩えもないが、そのメッセージはユニバースを貫く大義だと思った。やはり、人はやり直せることを謳う英雄譚だと。
しかし同時に、今作ホームカミングのヴィランを見てもわかるように、正義の多面性を戦わせてきたのがMCUやアメコミの懐の深さであったことにハッとさせられもした。
家族や友だちや恋人や、“親愛なる隣人”たちの、遥か向こう側にまで広がる複雑な世界に絶望できるほど大人じゃなかった。正しさの何たるかをこれっぽっちも知らないまだ子どもだったと。

まだ見ぬスーパーヒーローが続々と控えていると言うのならば、安易に幻滅ばかりもしていられないか。


☆3.9

(2018/07/27)