散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ベイビー・ドライバー

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ザッツ・“トゥルー・ロマンス”!
それも、俺たちの、新しい。

“ベイビー”・タランティーノこと俺たちのエドガー・ライトが、ついに俺たちのオタク趣味をみんなのエンターテインメントにまで広げてみせた傑作。サンプリング時代、ウォークマン経由iPod世代、テン年代を総括するエポック。
異論はあるだろう。しかしこれが俺たちの、そしてこれからの私たちの映画だ。

ザ・ドライバー』をベースにしても、それや『ドライヴ』のようなハードボイルドは纏わないし、『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』のような結末を迎えることを良しともしない。俺たちのボーイミーツガールは“ボニーとクライド”にもなれない。

バイオレントなアウトローに憧れを抱きながら、自分とはまるで住む世界の違う存在であることも自覚している。
不似合いなサングラスで視界を覆って、アップルの純正イヤホンに流れるロックで雑踏の喧騒をかき消して。軽快なステップを踏んで向かう先といえば映画館かレコード店くらい。
逃げ込んだ先の虚構。暗闇に浮かぶ、虚構としての憧れに過ぎない。

空想は現実に立脚してこそ。
青春なら卒業してこそ、思い出は過去になってこそ悲しくも美しく語られる。
本作が素晴らしいのは、音楽はあくまで主人公の人生を代弁するBGMであって、主旋律はその物語にあること。「音楽が止まっても歌詞は続く」ということ。
映画が終わっても続く人生への賛歌であるということだ。

ノイズをかき消す懐メロのリピートで灰色の世界に閉じ込もらないで。
悲しいほどに優等生な僕たちのロマンティック。


☆4.3

(2018/07/29)