アメリカという遠い異国の地を。
古き良き昭和ノスタルジーを。
そして、母の過ごした青春の日々を──。
知り得るはずのない郷愁に憧憬が、映画を通してこの胸にあふれる。
ニューシネマの傑作『卒業』より十年。カウンターカルチャーは終焉を迎えて久しく、今やディスコに揺られるシスコの街に遅れてやって来た夢追い人たち。黒いサングラスはアウトサイダーへの憧れ。ここではないどこかに自由を欲する“逃亡者”たちの、あるいは“野良犬”そして負け犬たちの、儚いがゆえに美しい初恋の季節を詩情豊かな昭和歌謡とともに記憶する。
大林宣彦の慧眼は、山口百恵と三浦友和のゴールデンコンビに虚実ないまぜの恋愛模様を写し撮る。それは「愛があれば生きられる」という虚構──虚構であり、虚構に見出される真実──へのまなざし。無意味な人生の昨日と明日を繋ぐたった一つの、赤い“糸”の物語を織りなす。
後悔なき人生は虚しい。
狂おしい恋の思い出だけが彼女を泣かせ、僕を走らせる。
愛はいつも遅れてやってくる。
『ふりむけば愛』
ふりむけば君の思い出が螺旋橋に続いている。
☆3.9