散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ホテル・ムンバイ

搾取構造を温存し、貧富の差を拡大させておきながら、人々を不用意に近づけすぎたグローバリズムの歪みが局所に噴出する。

立ち並ぶ高層ビル群を傍目に、ゴミだらけの岸辺へゴムボートで乗りつける若者たちが向かった先は、『スラムドッグ$ミリオネア』でフィナーレを飾ったあのCST駅。輝かしい栄光と人々の活気で溢れるムンバイの中心地で、同時多発テロの惨劇ははじまる。美しい愛の記憶が、憎しみの蛮行によって上書きされる事実に愕然とする。まるで害虫駆除でもするようにたんたんと銃の引き金を引いていく。人を人とも思わない、まさに異教徒は人ではないという彼らの“狂信”に戦慄を覚えると同時に、途方もない無力感さえ覚える。

善と悪の二項対立に単純化せず、ハリウッド的な英雄譚には下りない、むしろ名もなき“殉教者”の哀れにフォーカスする真摯なまなざしが、より絶望的な分断の時代を記録する。


☆3.6