散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

スーサイド・ショップ

人生は素晴らしいも、人生は残酷も同じ。バナナの皮に滑って転げる人がオカシイのも痛々しいのも同じであるように。ものは見様によって悲しくも愉快にも、美しくも映るのが人の世である。 灰色の街で、悲観に暮れる人々にとって“死”は最後の最後に残された希…

はじまりへの旅

常識を疑え。権力に抗え。自分の言葉を持って。道なき道を行け。 "Power to the people""Stick it to the man" 不当で病んだ最低の世の中に、反逆の道を示してくれるはずの“父”はもういなかった。「いまを生きる」ということの本当の意味を問いかけてくれる…

マザー!

ノアの方舟を描いた前作に続いて、“楽園”、“黙示録”と口にされれば聖書をモチーフとした箱庭表現であろうことくらい察しはつくが、その定型には愚かな人間への愛憎を軸に、様々なメタファーを入れ替えることも可能である。 神経症的な、ポランスキー的な悪夢…

デス・レース

すっかり毒抜きされた子供騙しのまやかしで、あの歴史的問題作『デス・レース2000年』のリメイクを謳うのはもはや冒涜の域。陳腐化され切ったビデオゲーム的想像力の幼稚性は、オリジナルの確信犯的な露悪表現のそれとは似て非なるもの。既視感しか残らない…

ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ

「愛は簡単じゃない。だから愛なんだ」失って、やっと初めて気付けること。障害を乗り越えてこそ手に入れられるもの。 グローバル都市ならでは、つまりある意味でローカルな恋愛事情を題材にしながらも、誰もが僕たちの“ロマンス”に覚えのある普遍的な恋愛あ…

スプリング・ブレイカーズ

ロックンロールの敗北から四半世紀あまり。EDMの巨大産業に踊らされる現代の若者たち。21世紀型退廃。その享楽主義はモラトリアムに許された期間限定の現実逃避に過ぎない。資本主義に懐柔され、公権力の監視下で、去勢された不良たちのド派手なバカ騒ぎが虚…

プレシャス

彼女の置かれた境遇にはまるで似つかわしくないドリーミーな光彩で語られるのは、どうにも救いようのない不幸に見舞われた人間が何とかすがっていられる妄想と、地獄のような現実とが混濁した情景だろうか。 暗闇にこそ差し込まれる光に人は目を奪われる。一…

フォーリング・ウォーター シーズン1

謎が謎を呼ぶ無秩序なイメージの連続。リンチ的ギミックの散りばめられた幻想は、夢の中に生きる夢見人の無意識に深く通じ合う。解かれることのない謎が夢を醒ませまいとすれば、永続する浮遊感に身も心も癒される夜の帳。明滅する電気は、ありし現実の反射…

ノー・エスケープ 自由への国境

折しも中間選挙に重なるようにして押し寄せるキャラバンに対し、トランプの「忠実な愛国者作戦」により派遣された武装兵士たちは有刺鉄線の壁を築く。そして、暴力で溢れる祖国を逃れ、ただ生きるための場所を求めてやってきた旅人たちに銃口を向けるのだろ…

タイピスト!

哀しげに遠い目をするロマン・デュリスと、今この瞬間に瞬くデボラ・フランソワの瞳が、この恋の行く末を語り終えている。 古き良きロマンティックコメディへの憧憬が今の時代に映し返したのは、女性の自立心と、彼女らなしには生きる意味すらままならない男…

アナイアレイション -全滅領域-

無限に模倣を繰り返し合えば、やがて全てが同一化された完全なる調和は生まれる。そこは時間や方角までも全てが消滅した0次元か、あるいは全てを同時に内在する高次元か。人間の知覚する限りにおいては何れも死も同じ領域である。 膨張の果てに、ある極点を…

On your mark

過ぎし日の僕ら。映画は短ければ短いほど理想的だと友は言った。長ければ長いほど、叶うものなら終わらない映画を見ていたいと僕は応えた。その両方を実現する、ほんの7分間のプロモーション・フィルム。まごうことなき短編映画だ。 世界の真実を穢れなき少…

夢と狂気の王国

映画的情緒が淀みなく流れるように、前後のフッテージが螺旋的に繋がって響き合う構成と編集の巧さに舌を巻く。 数あるスタジオジブリのメイキング作品に嘗てなかった、記録映像の枠をはみ出してドラマを紡ぎ出してしまう初めてのドキュメンタリー“映画”。あ…

ラセターさん、ありがとう

「ミヤザキ-サン!」と呼び掛ける度にハグを求め、肩に腕を回し、ベタベタと過度なボディタッチをするジョン・ラセターの姿を見ていると、たとえそれが敬愛の表れだったとしても、例のセクハラ問題を想起せずにはいられないことが、まずとても悲しいことだっ…

「もののけ姫」はこうして生まれた。

記号的、またの名をマンガ的な表現には殺意を抱いて忌避する。類い稀な観察眼と空間認識能力を有し、天才と呼ぶ他ない神業なる“線”で象られるキャラクターには、生きた人間としてのリアリティが吹き込まれる。あるべきリアリティへの追求が妄想の世界を支え…

もののけ姫

長年テレビ台の左端を陣取るVHSで、時に高画質を求めてレンタルDVDで、そして金曜ロードショーで繰り返し放映される度に何度となく観るような、そんな映画は『もののけ姫』の他にない。いつ観ても決して感動が薄らぐことはなく、記憶に刻み込まれた全てのセ…

灰とダイヤモンド

オカリナだろうか。『地下水道』から木霊するその音色はどこからともなく、辺りを舞う小鳥のさえずりとハーモニーをなして平和を歌い、礼拝堂に花を手向ける少女を迎える。陽光の降りそそぐ草むらで気持ちよさそうに寝そべる主人公は若い青年。束の間の休息…

地下水道

砲撃、銃声鳴り響く、瓦礫の山と化した廃墟の街並みより、糞尿まみれる地下水道の袋小路に、獣のような叫び声が残響する暗闇の地獄絵図よりもっと残酷な、光に照らされた絶望というものを私は初めて見た。 それらすべては人間の所業。『ソハの地下水道』に差…

マイノリティ・リポート

過去に呪われ、人生の復讐戦に身を捧げる敗残者。囚われの日々が盲目に見させる幻覚にも似た悪夢的なヴィジョンは、悲しいほどに正確に、現実化する近未来ディストピアのそれなのである。 世界は憎悪で溢れている。その決定的な真実に耐え切れない人々は、い…

SF/ボディ・スナッチャー

真の恐怖は何処からともなく音も無く。目には見えない脅威が闇に紛れて忍び寄る。気付いた時にはすでに遅し、変わり果てた世界に対抗する術もなく、ただ逃げ惑うばかりの少数者。 言葉を交わしているようで全く通じていない彼らは誰か。同じ人間のようでまる…

トゥモロー・ワールド

耳をつんざく爆弾、銃声の雨をかいくぐるように流麗に動き続けるカメラの臨場感は、世界の傍観者を黙示録のカオスへあっという間に放り込む。あまりに唐突で、性急な悲劇、絶望に見舞われようとも立ち止まることは許されない、息をもつかせぬアンチヒーロー…

浮き雲

冷たい風が吹き荒む季節に。人を人とも思わないような社会システムの貧乏くじを引かされ、切り捨てられた“労働者”たちの眼差しは、それでもまっすぐと前へ。たとえ弱音を吐こうとも涙は見せず、黙々と、淡々に、一歩進んでは二歩下がるような笑っちゃうくら…

街のあかり

負け犬をとことん追い詰めて掃き捨てるのがこの社会のやり方なら、そうか、そうすりゃいいさ。力には屈しても決して折られやしない心。何も持たざる弱き男がただ一つ立派に持ち合わせている、大層、厄介なプライドさ。 そうさ孤独さ。悲しい男さ。だからって…

バニラ・スカイ

レディオヘッド、アンダーワールド、ボブ・ディラン、モンキーズ、ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズ、スピリチュアライズド、シガー・ロス、そしてポール・マッカートニー……etc.心のサウンドトラックの数々に彩られる残酷な夢、あるいは幸せな悪夢…

28日後...

静寂の黄昏。人の消えた街に、高層ビルのガラス窓に反射する夕陽が光輝く。歪んだレンズに覗く、絶望のはずの世界は白昼夢のように美しい。 世界の終わりで偶然出会った善人たち、疑似家族のロードムービーの得も言われぬ浮遊感に身を預ける。日没に刹那、訪…

ゾンビ/ディレクターズカット完全版

牧歌的なショッピングセンターの館内BGMと一緒に、この映画が描く終末世界こそが、恐怖としてではなく、安らぎのヴィジョンとして脳裏に焼きついている。また、人間の愚かさを皮肉るメタファーとしての“生きる屍”の本義もここにある。 ゾンビは醜く哀れであ…

ストレンジ・デイズ/1999年12月31日

世紀末の狂乱と未練。世界が終わる日にこの人生も終える。最期の時は、自分が自分であるための誓い、この愛に捧ぐ。 今はもう拒絶され続ける愛。しかし誰にも否定し得ない幸せがあった愛。人生の欠片を拾い集めた“ディスク”に夜毎浸るのは、色褪せる思い出と…

フォーエバー ~人生の意味~

贅沢とユーモアですぎさる時間。ふと思う、そんな生活の退屈や後悔もまた一興 。誰もが山あり谷ありの冒険に満ちた人生を歩むべきだなんてことはなく、平坦な道をてくてくと歩き続ける穏やかな日々の繰り返しも悪くないものである。きっと、少し不満なくらい…

トータル・リコール

夢の中でも“夢”を見ている。いつかの“彼女”の影を追って、眠りの中では自分が主人公の大冒険へと旅立つ。 突飛なシナリオにも身を任せてハッピーエンドのキスを目指して。なのにどうして、夢は必ずエンドロールを待たずして覚める。いつも何かに追われる悪夢…

イグジステンズ

客観的事実とは、みんなで見る幻想に過ぎない。“すべての現実はヴァーチャルである”現実は作られ、演じられることでの産物である。 フィクションとセックスに生の体験を求め、その幻想の中でしか繋がり合うことのできない人間という生き物。ならばその甘美に…