散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

風の谷のナウシカ

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ぼくらは一体いつまで、少女の無垢に世界の希望を託し、または悲しみのすべてをその一身に押し付けて涙する物語に耽溺しているのだろうか。

大人になってようやく気付く。この時代に生まれ、この国の大衆の子どもとして育った者にとってのジブリアニメの影響力、宮崎駿という大きすぎる存在について。もはや師であり、精神的な父と呼んで過言でない。彼の絵を通しておそらく初めて少女を見つめ、おそらく初めて世界を鳥瞰する。

スタジオジブリの原点となり、宮崎作品、その思想の集大成でもある『風の谷のナウシカ』にて植え付けられたヒロイン像は今もなお不動のものであり、彼女の叫びに共鳴したその日より、この残酷な人間社会への世界観は定まったままなのである。

「やめて、もう殺さないで!」

「お願い、殺さないで……」

生に内包される死があらわに、幼心に。その喪失を受け入れることも、目を背けることもできない、うぶな感受性に深いトラウマを残し、今もなお、美しい絶望が金色に揺れている。

きっと死ぬまでには──などと悠長に、悲しみのノスタルジーに浸ったままでいい時間はとうに過ぎている。絶望の先のカオスを知るべく、いよいよ漫画版を読まねば。いつまでたっても大人になれやしない。父のテーゼを乗り越えられやしないのだ。


☆4.5

(2019/01/06)