散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

東京ゴッドファーザーズ

写実的に描かれる街並み。その実、室外機が驚いていたり、建物が泣いていたり、笑っていたり、サブリミナルな仕掛けが背景に施される東京散歩。虚構性、リアリズム、映画の“嘘”と“本当”がいっしょくたになって滲み出る情緒。 「健気とさえいえる真面目な努力…

SWEET SIXTEEN

恋愛だけがラブストーリーじゃない。 もうすぐ16歳の少年の願いは、星の見える湖畔のコテージに母と姉と甥っ子たちと、家族揃って暮らすこと。当たり前にあるはずの、ささやかな安らぎの場所を手に入れることが、たった一つの彼の夢。 雨の町。叶いかけた願…

ぼくのエリ 200歳の少女

ひとりぼっちのオスカーの前に降り立った、裸足の“少女”エリ。原題は、ヴァンパイアは家人に招かれて、初めて足を踏み入れられることから。 雪の降り積もるスウェーデンの郊外。トーマス・アルフレッドソンの端正な、寒々しく冷気の通る映像に、挿入される生…

テイク・ディス・ワルツ

いつの間にか薄ぼやけてしまう未来への視界に、新たな幸せへの幻が映り込む。どこかで会った気がする“あなた”は、いつか失ってしまっていた情動。 過ぎ去っていく時の、その一瞬にも、切なさと戸惑いを感じ取ってしまう彼女。いくらかは満たされていても、ほ…

メランコリア

“あらゆる夢の中で最も麗しい夢への記念碑” ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」が轟く。 鬱病期のトリアーが構想したユートピア。既に精神が崩壊し、不幸のどん底にある鬱病者がディザスターにパニックすることはなく、寧ろ安堵を覚えるだろう。煩わしい…

ラースと、その彼女

26歳の心優しいラースは、一人孤独に暮らしている。優し過ぎるという、弱さ。人を傷つけることに怯え始めると、他人を遠ざけ、自ら孤独を選んで生きるようになる。元宣教師でブラジルとデンマークのハーフの新しい恋人ビアンカは、リアルドール。体温を感じ…

卒業

‘ハロー、ダークネス。我が友よ’(The Sound of Silence - Simon & Garfunkel) 黒のサングラスは、虚像を見透かすアウトサイダーのアイコン。 メインストリームからのドロップアウト。欺瞞に満ちた“プラスティック”な社会に朽ちてゆくのは御免である。あなた…

鬼火

「人生は僕のなかであまり早く過ぎて行かない。だから速度を早めよう」 虚無という名の死に至る病に苛まれる青年、と言っても、もう若くはない30代を迎えた男。誰も僕を助けられない。理性の限りを尽くし、こうする他ない。チェックメイト。 自死を心に決め…

ONCE ダブリンの街角で

‘君はどんどん変わっていってぼくは追いつけなくなったもう少しゆっくり変わってくれたら君の嘘がぼくにも分かったのに君の嘘でぼくたち終わってしまうって’ とある“Guy”の誰も聞いてやしない歌を、とある“Girl”は立ち止まって聞いてくれていた。 劇中音楽は…

フローズン・タイム

ファッションフォトグラファーのショーン・エリスが、静的に、止められても戻すことはできない“時間”をクローズアップする。 失恋のショックで、感情がクラッシュ。不眠症の末に、時間は止まる。静止した世界に感情を取り戻すための唯一の活路は、恋、リビド…

アフター・ウェディング

シガー・ロスの魂から絞り出されるように切実なボーカルが、涙腺を刺激する。ウェディングという最も祝されるべき宴は、不都合な真実が露見される場に相応しい。 顔の表情が読めないほどに近付き過ぎるカメラは、溢れる涙の粒を繊細に、瞳の動きをダイナミッ…

CODE46

どこか似通った顔立ちの二人の俳優。“Code46”は禁断の愛。記憶が、痛みが、内と外に隔離された世界が二人を別とうとも、遺伝子が互いを探している。根源的な愛が共鳴している。 上海を舞台にした都市と、インド、ドバイに、シアトルも掛け合わせた無国籍的な…

フレンズ/ポールとミシェル

‘この手を握っておくれ。なんて素敵なんだと叫ぼう。誰にも見つかりはしない、大空の下……’ 大人の都合する社会に居場所がない“友だち”は、俗世を抜け出し、汚れなきセカイを南仏の野生に築く。ただこの愛だけに支えられた生命力で、どこまでもたった二人だけ…

マトリックス リローデッド

無条件に与えられた“救世主”の称号。その特別な存在としてのアイデンティティーは否定される。仮想現実から覚醒しても、尚立ちはだかる虚無。自由意志の積み重ねの結果に立っているはずの現在地が、予め設定されたプログラムによる道筋の途中に過ぎなかった…

あなたになら言える秘密のこと

今、この時、少し前。感情を殺して、心を閉ざして、過去を見ないように、未来を描かないようにして。 黙々と、規則化した日々をやり過ごす。補聴器のスイッチはオフにして、何も聞こえないように、一人きりになるために。何度も死んだ魂。でも生き残ってしま…

ヒース・レジャーの恋のからさわぎ

ヒース・レジャー、ジョーカーに連れてかれちゃってよ。役に身を捧げ、28歳で星になった稀代のカリスマ。この学園アイドル映画は、後の奇演怪演に証明されるカリスマ性の一端を存分に見せびらかした、彼の華々しいハリウッドデビュー作。 新人監督と若手俳優…

スーパー!

人生の完璧だった瞬間#1 サラとの結婚式#2 「お巡りさん、あっちです!」人生最良の日。それ以外は、苦痛ばかり。屈辱、拒絶にまみれた日々。 たった二つの誇りのうちの一つを奪われたフランクは、神の啓示によりヒーローのマスクを被る。タクシードライバー…

シェルブールの雨傘

カトリーヌ・ドヌーヴ×ジャック・ドゥミ×ミシェル・ルグランの三重奏。姉妹共演の四重奏『ロシュフォールの恋人たち』が続く。全台詞が歌によって綴られるミュージカルは、愛の囁きに最も真実味をもたせる表現方法に思える。 「ジュテーム」 カラフルな雨傘…

ルビー・スパークス

理想的な女の子に恋はしても、彼女の変化を押しとどめている状態を愛には数えられない。 ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスの監督コンビは夫婦で、脚本、主演のゾーイ・カザンとポール・ダノは長年のカップル。彼女たちによる、愛についての考察。…

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

初期三部作の前日譚、「X-MEN」誕生の歴史。 リンカーン記念館でチェスを興じるチャールズとエリック。例えば、キング牧師とマルコムX。非暴力による協調。急進的な革命。共存か戦争か。抑圧、迫害されるマイノリティの抵抗運動に内包する分裂闘争の歴史を、…

トゥルー・ロマンス

ボンクラ映画オタクの妄想が全肯定されるウルトラミラクルラブストーリー。 今となってはハンス・ジマーらしからぬ、『地獄の逃避行』オマージュの“You’re so cool”が郷愁のトーンを決定付ける。トゥルーロマンス、これ以上ない嘘っぱちの恋。 脚本クエンテ…

愛・アマチュア

石畳に倒れた男と、男を覗き込み走って立ち去る女のミステリアス。記憶を失った男と、“生産資本”に過ぎないポルノ女優は人生を取り戻したかった。元尼僧のポルノ小説家が、この風変りなフィルム・ノワールの語り部。 ニューヨーク・インディペンデント派のハ…

ショート・ターム

当事者にしか解り得ない。簡単には共感すべきでない題材への態度。監督の就労体験を基に描かれる児童保護施設でのドラマは、理想と現状をフィクショナルとドキュメンタルの両面で描き出している。 “SHORT TERM 12”の12とは、保護期間の12か月。映画はほんの9…

レイチェルの結婚

父や母も絶対ではない、一人の人間であることを突き付けられる瞬間。 最も幸福な儀式で、非日常の演劇的空間にこそ探られる本性。触れないようにやり過ごしてきた齟齬をこんな時なのに、ではなく、こんな時だからこそ埋めようと努力すべき機会。揺れる手持ち…

霧の中の風景

タタン…タタン……タタン…タタン……十二歳の少女と五歳の弟。二人は列車に乗り込み、会ったこともない父親を探す旅に出る。 舞台は資本主義の波に揺れるギリシャ。進む方向を見失った混迷の時代。幼い二人が目の当たりにする世界の原理を、曇天の空に詠む映像詩…

シーズ・ソー・ラヴリー

“インディペンデント映画の父”ジョン・カサヴェテスが遺したシナリオを、息子のニック・カサヴェテスが映画化。映画化を熱望し、一時は映画化権を継承していたショーン・ペンが自ら主演。相手役に実際の妻であったロビン・ライト・ペン。ジョンの妻、ニック…

続・激突!/カージャック

このカクカクした何となく口ずさみたくなる邦題であるが、前作『激突』とは無関係の、スピルバーグ劇場用第一作。原題は“シュガーランド・エキスプレス”。 養育権を取り上げられた女は夫を脱獄させ、赤ん坊のいるシュガーランドへ。警官を人質にとったカージ…

さすらい

前夫人に「わたし、もうあなたを愛していないの」と、一言を残して去られたアントニオーニの、「ではどうすればいいんだ?」という疑問が写実される。その答えは当然に出ない。苦悶する男の絶望の叫びが延々と映し出されるだけ。「難しく考えたらキリがない…

ラ・ブーム

愛の国の青春群像劇は、子どもたちに色々とあれば、大人たちにも色々が諸々と。いくつになろうと、われわれのモロモロは愛について。 ソフィー・マルソーのデビュー作。流行歌に追想される珠玉のアイドル映画は、時代の空気を閉じ込める。 「愛のファンタジ…

明日へのチケット

イタリアからエルマンノ・オルミ、イランからアッバス・キアロスタミ、イギリスからケン・ローチの三巨匠によるオムニバスは、三篇が一つのストーリーを繋ぐ。 オーストリアはインスブルック発ローマ行き。国境を横断する列車は、世代、階級、職種、人種の様…