散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-27から1日間の記事一覧

CODE46

どこか似通った顔立ちの二人の俳優。“Code46”は禁断の愛。記憶が、痛みが、内と外に隔離された世界が二人を別とうとも、遺伝子が互いを探している。根源的な愛が共鳴している。 上海を舞台にした都市と、インド、ドバイに、シアトルも掛け合わせた無国籍的な…

フレンズ/ポールとミシェル

‘この手を握っておくれ。なんて素敵なんだと叫ぼう。誰にも見つかりはしない、大空の下……’ 大人の都合する社会に居場所がない“友だち”は、俗世を抜け出し、汚れなきセカイを南仏の野生に築く。ただこの愛だけに支えられた生命力で、どこまでもたった二人だけ…

マトリックス リローデッド

無条件に与えられた“救世主”の称号。その特別な存在としてのアイデンティティーは否定される。仮想現実から覚醒しても、尚立ちはだかる虚無。自由意志の積み重ねの結果に立っているはずの現在地が、予め設定されたプログラムによる道筋の途中に過ぎなかった…

あなたになら言える秘密のこと

今、この時、少し前。感情を殺して、心を閉ざして、過去を見ないように、未来を描かないようにして。 黙々と、規則化した日々をやり過ごす。補聴器のスイッチはオフにして、何も聞こえないように、一人きりになるために。何度も死んだ魂。でも生き残ってしま…

ヒース・レジャーの恋のからさわぎ

ヒース・レジャー、ジョーカーに連れてかれちゃってよ。役に身を捧げ、28歳で星になった稀代のカリスマ。この学園アイドル映画は、後の奇演怪演に証明されるカリスマ性の一端を存分に見せびらかした、彼の華々しいハリウッドデビュー作。 新人監督と若手俳優…

スーパー!

人生の完璧だった瞬間#1 サラとの結婚式#2 「お巡りさん、あっちです!」人生最良の日。それ以外は、苦痛ばかり。屈辱、拒絶にまみれた日々。 たった二つの誇りのうちの一つを奪われたフランクは、神の啓示によりヒーローのマスクを被る。タクシードライバー…

シェルブールの雨傘

カトリーヌ・ドヌーヴ×ジャック・ドゥミ×ミシェル・ルグランの三重奏。姉妹共演の四重奏『ロシュフォールの恋人たち』が続く。全台詞が歌によって綴られるミュージカルは、愛の囁きに最も真実味をもたせる表現方法に思える。 「ジュテーム」 カラフルな雨傘…

ルビー・スパークス

理想的な女の子に恋はしても、彼女の変化を押しとどめている状態を愛には数えられない。 ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスの監督コンビは夫婦で、脚本、主演のゾーイ・カザンとポール・ダノは長年のカップル。彼女たちによる、愛についての考察。…

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

初期三部作の前日譚、「X-MEN」誕生の歴史。 リンカーン記念館でチェスを興じるチャールズとエリック。例えば、キング牧師とマルコムX。非暴力による協調。急進的な革命。共存か戦争か。抑圧、迫害されるマイノリティの抵抗運動に内包する分裂闘争の歴史を、…

トゥルー・ロマンス

ボンクラ映画オタクの妄想が全肯定されるウルトラミラクルラブストーリー。 今となってはハンス・ジマーらしからぬ、『地獄の逃避行』オマージュの“You’re so cool”が郷愁のトーンを決定付ける。トゥルーロマンス、これ以上ない嘘っぱちの恋。 脚本クエンテ…

愛・アマチュア

石畳に倒れた男と、男を覗き込み走って立ち去る女のミステリアス。記憶を失った男と、“生産資本”に過ぎないポルノ女優は人生を取り戻したかった。元尼僧のポルノ小説家が、この風変りなフィルム・ノワールの語り部。 ニューヨーク・インディペンデント派のハ…

ショート・ターム

当事者にしか解り得ない。簡単には共感すべきでない題材への態度。監督の就労体験を基に描かれる児童保護施設でのドラマは、理想と現状をフィクショナルとドキュメンタルの両面で描き出している。 “SHORT TERM 12”の12とは、保護期間の12か月。映画はほんの9…

レイチェルの結婚

父や母も絶対ではない、一人の人間であることを突き付けられる瞬間。 最も幸福な儀式で、非日常の演劇的空間にこそ探られる本性。触れないようにやり過ごしてきた齟齬をこんな時なのに、ではなく、こんな時だからこそ埋めようと努力すべき機会。揺れる手持ち…

霧の中の風景

タタン…タタン……タタン…タタン……十二歳の少女と五歳の弟。二人は列車に乗り込み、会ったこともない父親を探す旅に出る。 舞台は資本主義の波に揺れるギリシャ。進む方向を見失った混迷の時代。幼い二人が目の当たりにする世界の原理を、曇天の空に詠む映像詩…

シーズ・ソー・ラヴリー

“インディペンデント映画の父”ジョン・カサヴェテスが遺したシナリオを、息子のニック・カサヴェテスが映画化。映画化を熱望し、一時は映画化権を継承していたショーン・ペンが自ら主演。相手役に実際の妻であったロビン・ライト・ペン。ジョンの妻、ニック…

続・激突!/カージャック

このカクカクした何となく口ずさみたくなる邦題であるが、前作『激突』とは無関係の、スピルバーグ劇場用第一作。原題は“シュガーランド・エキスプレス”。 養育権を取り上げられた女は夫を脱獄させ、赤ん坊のいるシュガーランドへ。警官を人質にとったカージ…

さすらい

前夫人に「わたし、もうあなたを愛していないの」と、一言を残して去られたアントニオーニの、「ではどうすればいいんだ?」という疑問が写実される。その答えは当然に出ない。苦悶する男の絶望の叫びが延々と映し出されるだけ。「難しく考えたらキリがない…

ラ・ブーム

愛の国の青春群像劇は、子どもたちに色々とあれば、大人たちにも色々が諸々と。いくつになろうと、われわれのモロモロは愛について。 ソフィー・マルソーのデビュー作。流行歌に追想される珠玉のアイドル映画は、時代の空気を閉じ込める。 「愛のファンタジ…

明日へのチケット

イタリアからエルマンノ・オルミ、イランからアッバス・キアロスタミ、イギリスからケン・ローチの三巨匠によるオムニバスは、三篇が一つのストーリーを繋ぐ。 オーストリアはインスブルック発ローマ行き。国境を横断する列車は、世代、階級、職種、人種の様…

リトル・ミス・サンシャイン

「勝ち組になるための9ステップ」の啓発理論に拘泥する父。チキン料理ばかり食卓に並べる専業主婦の母。“沈黙の誓い”を頑なにするニーチェかぶれの兄。人生を“チェックアウト”しようとしたゲイの叔父。ヘロイン中毒の祖父。すきっ歯でメガネでぽっちゃりのオ…

人生は、時々晴れ

「愛ってのはバケツに落ちる水の滴だ。独りの愛だと水は半分。満たされることはない。だから人間は孤独だ。独りで生まれ、独りで死んでいく」 階級社会イギリスの下層部を描く団地映画に、傑作は多い。 どん詰まりに押し込まれた人々の人間模様には、何処も…

恋に落ちる確率

「終わりはいつも、手品や煙のように儚く移ろいやすい」 「きっかけとしては、ほんの少しの笑い声、ある男、美しい女、そして恋」 「厳密に言うと始まりではない、始まり」 始まりなのか、終わりなのか。出会いなのか、別れなのか。能動的な愛。偶発的な愛。…

愛おしき隣人

『散歩する惑星』『愛おしき隣人』『さよなら、人類』は、2000年から7年おきの2014年に完結した「リビング・トリロジー」。人間であることに関する三部作。巨大制作スタジオ<Studio 24>にミニチュア、マットペイントを施したセットを組み、徹底したローテク主義で創り上</studio>…

おもいでの夏

ミシェル・ルグランの音階は、時代を超えて、すべての人にノスタルジーを喚起させる。脚本家の自伝的映画は、すべての男の子の原初的体験に。その憂いを帯びた瞳の美しいおとなの女の人は、生涯の憧れとして心に焼き付いたことだろう。 海辺の丘の一軒家。ひ…