散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-03から1日間の記事一覧

アメリカン・グラフィティ

新しい家を手に入れるために、今ある家を捨てなきゃならないなんてことあるのか。新しい友だちを見つけるために、今いる友だちを捨てなくちゃならないなんてことあるのか。 変わらなければならない節目の時は訪れ、旅立つべきか留まるべきか、人生の岐路に立…

バルスーズ

外道を行く“兄弟”の逃避行は、実存をひた走る。 汚れからは目を逸らすようにジャンプカットで先へ先へ、無邪気な逃走が一方への進行方向に導かれるカメラの構図。逃げ続ければ止まない追手を背に、車を、女を乗り換えるまだ“乳飲み子”たちの遊戯には、野鳥の…

ライト/オフ

見てはいけないものを見てしまったら、再確認せざるを得ないのが人間の性。それが恐怖への対処法という思い込みは実害をもたらす。触らぬ神に祟りなしだ。 見えるはずのないものを見てしまった。見えそうで見えない何かを見ようとする度、黒い影は近付いてく…

ちはやふる 下の句

それを卒業すべき成長過程に過ぎないとする生き方を選ぶ者にとっては、もはや人生に何ら必要のない幼稚な歌なのかもしれない。だが、終わらない青春を生きようと願う者は、青春映画に心の友を探し続けるのである。 私が私である理由。思春期に限らず、あらゆ…

ザ・フォッグ

“歴史は野蛮に始まっている” 現在に享受される平和が、阿鼻叫喚の残虐な歴史の上にあることを教える怪談。古今東西に言い伝わる、その土地土地の地縛霊の存在。アニバーサリー。暗くて冷たい水の中に沈められた亡霊が、生者の町へとやってくる。丑三つ時、夜…

ちはやふる 上の句

火花ちる、青春の幕開け。オープニングショットの“光裂く”広瀬すずの眼光に、不覚にも泣いた。「これは私の歌だ」と。君の物語だと。彼女の全身にほとばしる刹那の煌めきに。青春のくすんだ青を照らし、晴れ渡らせる情熱の赤。燃え盛る太陽のような光。激し…

バベットの晩餐会

曇天の空に海風が吹く辺境の村で、敬虔なプロテスタントの人々が静かな暮らしを送っている。質素で禁欲的で、清貧な暮らし。アンデルセン童話やカラフルな街並みから連想するメルヘンなイメージとは別に、脈々とデンマークの大地で受け継がれる土着の風土。 …

ダウンタウン物語

コドモばかりのギャングのお遊びにジョディ・フォスターが登場すると、途端に魔法の時間が流れる。一瞬の奇跡的なショットの写り込みを目撃できれば、それはそれで観た甲斐があったというもの。ありとあらゆる取るに足らない映画でも、その宝探しでは何かし…

ストップ・メイキング・センス

“感”情が“動”かされることを「感動」と言う。すべてのロックンロールが胸躍らせるダンスミュージックであるように、すべての良き映画は心震わせるダンスムービーだと言えるのかもしれない。その種の衝動に突き動かされる感情の揺れに勝るものはない。そう言…

サムライ

映画は、詩であり、音楽であり、絵画であり、照明であり、写し鏡であり、白昼夢であり。スタイルであり、哲学であり、暴力であり、ポルノであり、麻薬であり。恋であり、自己愛であり、浪漫であり、美学であり。 生と死、罪と罰、嘘と真実。OuiとNon、白と黒…

スター・ウォーズ/フォースの覚醒

感動とは何ぞや、訝しがりながらも何度か全身に鳥肌を立てながら終始楽しんだ。オリジナルへのオマージュに気が付くほどのSWフリークではない。そんな小細工よりも、もっと大枠に施された物語の推進力に持っていかれたのだと思う。 画力の衝撃でパンチドラン…

チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜

彼は死ぬことにした。ベッドで死の訪れを待つことにした。それ以外には喜びも味わいも希望も失った。窓の向こう側では、ブランコを揺らす愛娘。カーテンの隙間から陽光が差し込む“退屈の庭”で、過去と未来、追憶と空想が巡る。彼を愛し、彼が愛した者たちへ…

マジック・イン・ムーンライト

詩情豊かに、柔らかな夕陽が降り注ぐ南仏に。人の希望を砕く皮肉屋と、生きる支えを捏造するペテン師。 解けないマジック、ウソの希望は、価値観を180度変えてしまう甘い誘惑。さすれば狂気。つまり恋。むなしく悲劇でしかない人生を芸術で充足させる厭世家…

人生、ここにあり!

“心の地獄を抱えた”病者を排除し、臭いものに蓋をする事なかれ主義の社会とは、多数派による弱者の切り捨てが繰り返され維持される社会に他ならない。“感情に働きかける作業”つまり日々の労働が、健全なる精神を健全なる身体に宿す。健全な労働環境は誰の手…

午後3時の女たち

午後三時、三時半くらい。平日なら尚良し。やるべきことを放り出し、日常を抜け出す“昼下がりの情事”は、乾いた生活に多分の潤いを与える。相応に支払う代償ももちろんそれなりに。しかし、虚しさに過敏な、うぶな感受性の持ち主にとっては必然の時間。 修羅…

グッドフェローズ

タバコの煙が舞い、高笑いが響くテーブル。我が物顔に居座るご一行と、配下に、その行使されずとも発揮される権威的な実力の恩恵にあずかろうと追随する若人たち。しかし真にファミリーにはなり得ない、所詮、血の契りを結び得ない“よき友たち”に過ぎないガ…

これが私の人生設計

全編を通して繰り広げられる同性愛や男女不平等にスポットを当てた笑いは、それこそがメインテーマ。社会的弱者の声を代弁はし切れずとも溜飲を下げるには十分に間に合うユーモアの正しい使い方と、真っ当なフェミニズム的な視点に好感を持つ。自立したヒロ…

キャビン・フィーバー

既視感のある構図に、道徳心に背いた因果応報を埋め込み、ホラーの定石を踏む。本来ならば立ち現れる見えざる恐怖の中心部を半透明のまま、その円周を歪に拡大させれば、予定調和を回避し、単一の類型化を拒否する何とも異質なテクスチャが浮かび出る。無論…

カンバセーション…盗聴…

一つのシークエンスに隠された謎の魅惑的なこと。覗き見、盗み聞いた断片を編集し、繰り返し“読み込む”ことの詩的なこと。 無法に他人の秘密を盗み取るプロフェッショナル、そう徹することを阻むのは男の抱える人間不信と孤独。薄靄に隠れた核心に深入りしよ…

ベティ・ペイジ

「クローズ(衣装)、ポーズ、エクスプレッション(表現)」 着飾り、演じることは、仮面を被ることで対抗し得る抑圧との戦い。仮面が剥がれて解放される人間の内なる姿。凡庸が過ぎ去っていくモノクロの世界に鮮やかなカラーが広がる。 現在にも、好奇の目…

エイプリルの七面鳥

ニューヨーク、その大都会の片隅に。素直になれず不器用にしか生きられない娘の、最後のたった一度だけのある決心について。 道端のロケーションや自然光に、ヌーヴェルヴァーグの息吹を仄かに遺すような揺れる手持ちカメラが見つめるのは、誰にでも抱え得る…

スポンティニアス・コンバッション/人体自然発火

トビー・フーパー。 煙りを立ち上らせ、メラメラと自然発火する人影。文字通り、怒りの炎を噴射する人体の様。恐ろしさと馬鹿ばかしさがせめぎ合うところ。陳腐なマンガ的表現に陥らず、どこか審美的で儚さすら感じる。この造形の愛らしさは、80年代の情緒か…

プライベート・ベンジャミン

かわいいは正義とは、許し。全方位的に許されるということである。通過儀礼の拒絶も、その幼稚性ゆえの無邪気な反逆も、許される。断固支持されたし。 しかしそれは男のエゴイスティックな愛の半面。過保護的な愛は、自由を束縛している。彼女らはそんな許し…

マネー・ショート 華麗なる大逆転

夢(ドリームとファンタジー)を見させることと、もう一方で映画が子どもたちに教えるべきは、このまやかしに満ちた現実について。 “大人”なんてのは、偽善、欺瞞にまみれ、詐欺が横行する搾取構造に組み入れられることを免れない生き物。倫理観を失った“愚…

ズーランダー

イディオット+デモクラシー=“イディオクラシー”が嘆かれる時代に、今見るべき映画としては「26世紀青年」や「スターシップ・トゥルーパーズ」と同じ箱に入っているであろう本作。 近頃、巷ではブルゾンちえみというお笑い芸人が人気らしく、彼女のキャラク…

ザ・ブルード/怒りのメタファー

人を殺す怨念。つまり呪いを実体化したクリーチャー。ところがその“ブルード”たちは寧ろ哀れで、少し愛らしいくらい。 不知、不可視が恐怖の本質なのであって、そこに居ることが確認出来てしまう存在なら、やはり人間以上に恐ろしいものなどそうそういない。…

2016年の映画生活ベスト10

1. ショー・ミー・ラヴ“たかだか思春期の1コマ。されど、彼女にとっては今が全てだ” 2. 恋人たちのアパルトマン“永遠の愛の不可能性を打破すべく、一つの可能性としてのプラトニックラブ” 3. ガスパール/君と過ごした季節(とき)“世界中の悲しみを受け止め…

アラビアのロレンス

青く澄み渡った空に一点、灼熱に照りつける太陽の光。地平線の彼方まで続く砂漠の白に、ぼんやりと浮かぶ黒い点は、ラクダに乗った人の影だ。 たかだか40インチ程度のテレビ画面では、この歴史的大作の映像美に特段の驚きを得ることは叶わなかったが、それで…

リンカーン

いくら進歩的で公明正大、“自明の理”である主張であろうと、あまりに強硬で急進的な変革は必ずや相応の反発を招く。社会を変えるため、人民の意識が変わるには仕方なく長い時間がかかるものなのだ。信念を固く内に秘め、時に妥協しながら真摯に対話し続ける…

波止場

“見ざる、聞かざる、言わざる”が賢い世に、それでも人は正しきことを捨て切れない。不正を正す良心。痛む良心とは、どこにあるのだろう。償いから芽生え、怨恨によって働かされるものが正義なら、人間はあまりに無力ではないか。はたまた、他人の悩みを我が…