散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ストップ・メイキング・センス

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“感”情が“動”かされることを「感動」と言う。
すべてのロックンロールが胸躍らせるダンスミュージックであるように、すべての良き映画は心震わせるダンスムービーだと言えるのかもしれない。
その種の衝動に突き動かされる感情の揺れに勝るものはない。そう言い及んでしまうのも仕方ない熱狂と悦びがあった。

“Live”ドキュメンタリーに物語は見出される。
各々のプレイヤーがドラマを紡いでいる。
起承転結のクライマックスにカタルシスは解放される。
音楽を観ることは、音源を聴くこととは一線を画す。その映像体験は映画体験に他ならない。ジョナサン・デミ×トーキング・ヘッズのコンサート・フィルムは、歴とした映画である。

ラジカセとギターを携え、一人ステージに姿を現したデヴィッド・バーンの元へ、曲毎にベース、ドラム、コーラス、鍵盤とバンドメンバーが音を重ねていく。
まるでスーパーヒーローの仲間たちが集結していくように、結成されるチームの全貌が明かされていく。
とりわけ、トーキング・ヘッズの紅一点、ティナ・ウェイマスの何とも名伏しがたいユニークな佇まい。可憐な腰つき、且つ、ストロボに照らせれる神々しさに目を奪われる。女性ベーシストの鑑の如く煌めき。
そして、謂わば異郷ながらも志を同じくする黒人サポートミュージシャンらとの邂逅。
最強の武器、ギターとマイクロフォンを手に、アフリカン・ファンク練達の士を擁し、さながらアクション映画のハイ・テンションを凌ぐ強度で、エッジの効いた音像をぶつけ合う。

極めてシンプルな舞台セットで前後左右に入れ替わりアクションするバンドメンバーの躍動を、正面のみならず、オーディエンスの立ち入れない横からの視点を以って立体的に映すカメラ。アンサンブルの重層が視覚的にも幾重に連なる相乗効果をもたらす。
フロントマンと脇を固める名手たちのそれぞれのエモーションが融合し、炸裂している様が感じ取れる。
踏み鳴らすリズムに共有されるグルーヴ。

ついには狂気に痙攣するダンスでトランスに達し、歌はヒトの咆哮となる。
血しぶきの代わりに滲む汗が、命を燃やすカリスマの身体を濡らす。まさに光と影のステージ上で、走る走る彼らのランニングパフォーマンスは、紛うことなき生へのエネルギーに満ちている。
異人種入り交じった観客席も踊る。男も女も子も踊る。ファンキーに伝達する振動は、それぞれの心臓の鼓動と共振し、狂信に錯覚される。果てはバイブルとなり得る音楽は生まれる。
一夜、また一夜、何処かのライブハウスでロックスターという神が誕生していた古き良き時代への憧憬と嫉妬がふと芽生える。
これは過去を記録した映像、映画だ。

断絶するようにあっさりと下ろされる幕。歓声は鳴り止まない。クロスフェードされる記録音楽は、オープニングで再生されたリズムトラックだ。
カッティングギターが刻まれるミニマルなリズムのループ。大陸を横断するアフリカン・ビートのうねりが日常を揺らす。
精神的にも肉体的にも、許容を超える興奮と恍惚の「感動」に、少々の嘔吐感すらを催した。


☆4.8

(2017/3/22)

Psycho Killer (Live)

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