散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜

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彼は死ぬことにした。
ベッドで死の訪れを待つことにした。それ以外には喜びも味わいも希望も失った。
窓の向こう側では、ブランコを揺らす愛娘。
カーテンの隙間から陽光が差し込む“退屈の庭”で、過去と未来、追憶と空想が巡る。
彼を愛し、彼が愛した者たちへの祈り。

遠い日に、決して忘れることのない最良の一日があれば、人は空虚な人生を生きていられる。
そのとき触れた“吐息”を、ひとつの音、ひとつの和音に籠め、愛の旋律を奏でる。
だから、再会してはいけない過去というものがある。夢を破壊する現実との際会は、音楽を止ませる。
愛の終止線は、その旅路、人生の終止線を兼ねる。


☆4.3

(2017/3/17)