散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-06から1日間の記事一覧

裸足の季節

風になびく五人姉妹の長い髪が、太陽の光を眩しく乱反射させる。そんな美しい瞬きにさえも、女性が“性”的な“もの”としてしか扱われない家父長制の男尊女卑の影が垣間見られる。 だから少女は決意と共に、女性“らしい”美しい髪の毛にハサミを入れる。 「かわ…

カーズ

古き良きアメリカに思いを馳せるは大人の見る夢に、故きを温ねて新しきを知るは子どもたちに見せる夢。古き良き夢工場の進むべき“道”を舗装し直し、再興に導くディズニーの新たな“キング”、ジョン・ラセターの決意表明。 ☆3.6 (2017/7/15)

哀しみの街かど

哀しみに溺れていたい。死に近づいてこそ得られる生の悦びから逃れられない。身を滅ぼす野良犬たちは、見つめ合い、傷つけ合い、依存し合って堕ちていく。恍惚の哀しみ。 ☆3.6 (2017/7/15)

幸せをつかむ歌

ドラムスのハイハットがカウントを刻み、ベース、キーボード、そして二本のギターが一斉に音を重ねる。「リッキー&ザ・フラッシュ」のギグが始まる。何でもないオーソドックスなライブシーンに『ストップ・メイキング・センス』や数々の名作MVを生み出した…

女ガンマン・皆殺しのメロディ

魂の殺人への“リベンジ”ものを西部劇のそれと重ねるのは、男の浪漫が乗っかるのでこれ厄介。男性本位の上から目線のファンタジーを手頃な娯楽として楽しんでいいものか。喚起されるエロスが二つの意味で悩ましい。 女の強さは、男のようになりたがることでは…

イット・フォローズ

少女は大人への境界線を跨ぐ時、その肉体は常に「それ」に見張られ、狙われていることを自覚する。薄いピンクの膜に透かして覗かれる淡い青の風景には、所々、ビビッドな赤が滴り落ちる。プール、海、雨に濡れる思春期の彼女たち。 “病”的なほどに囚われる“…

しあわせへのまわり道

何事も始めるのに遅すぎることなんかなくて、挑戦するのに適齢期なんてない。いくつになっても新しい世界に初めまして出来る人は素敵な人だ。 喪失からの再スタートは、ブレーキから足を離すことすら怖ろしい。初動にこそ最もエネルギーは要するものだから。…

マジカル・ガール

魔法少女に惑う男の、愛の盲目。 守護天使は堕天使、悪魔に成り果てようと、その愛ゆえに一命を捧げる。エゴに起因する欲望、人間的な愛に身を委ねる者は原罪を免れない。不変の真理は何が起ころうとも揺るがず、小さなカオスはより大きなコスモスに回収され…

DOPE/ドープ!!

“些細な出来事を起点に連鎖する想定外の展開”「滑りやすい坂」を転げ落ちないためには、上り坂を駆け上がるのと同等かそれ以上の脚力を要するんだ。 “らしい”困難を、“らしくない”知恵と勇気で乗り越えてカテゴライズの外へ。“底辺”を猛スピードで駆け抜けた…

サウルの息子

瞼を閉じることで目を背けることは出来ても、ぼやけた視界が直視することを避けても、耳に劈く叫びの声がこびりついて離れない。 まさにこの世の地獄、“死の工場”にあって守り抜こうとした人間の尊厳。 感情移入を拒み、カタルシスを排し、悲劇をただ愕然と…

ズートピア

反動の時代も、正しいことは正しいと讃えられるべきで、理想は謳い続けてこそ実現に向かうはず。 合議制による極めて理性的な映画作りによって映し出される政治的正しさ、子どもたちへ物語られるメッセージの正しさだけを以てしても、映画の正しさとして評価…

ぼくとアールと彼女のさよなら

映画の中で映画を撮る「ぼく」と、映画を観ている「ぼく」が重なる。 出会った頃のまだ小さい「ぼく」とアールがソファーに座って古い名作映画を観ている光景は、友だちの家に遊びに行っては『Mr.ビーン』の録画を居間で並んで観ていた少年時代とそっくり重…

死霊館 エンフィールド事件

恐怖にも慣れはある。2時間は長い。お化け屋敷も、暗闇に目が慣れるのにつれて危険は察知され始めるので、脅かす方も段々と強引になる。よっぽどバリエーション豊かに怖がらせないと飽きは来るし、それは“気持ちのいい怖ろしさ”ではなくなってしまう。だから…

ヘイトフル・エイト

普通なら120分以内に収めるはずのプロットを180分に引き延ばし、大仰にも70mmのワイドスクリーンでロードショー方式まで指定して自らの映画愛を作品化するなど、そんなことやろうとするのも、許されるのも映画界にただ一人。 そんな奇作はタランティーノ映画…

ハドソン川の奇跡

神童の誕生によりにわかに再燃する将棋ブームを眺めては、プロ棋士たちの天才を改めて知る今日この頃。未知の世界の達人たちの言葉が新鮮に響く。 プロ棋士の一手は、素人には考えられないほど先の先まで読まれた一手であると。よく言われるこれは、間違いで…

スポットライト 世紀のスクープ

衝撃的な“事実”を前に、映画はドラマチックを放棄する。見る者に、記者の取材内容を聞き取らせ、調査報道の過程に注視させる極めてシンプルで硬派なつくり。抑制された演出は無闇に主人公たちを英雄視せず、事の全容を安易に解釈されることからも遠ざけよう…

アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅

自分らしく生きる女性への賛歌とは裏腹に、原作小説の生まれにも通底する“少女を愛でるオジサンの視線”がカモフラージュされてしまっている。 「ぼくのアリス」、ぼくの知っているアリスならば、どんなに奇想天外な行いも、それが世界を崩壊に導く身勝手であ…

ザ・ウォーク

なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ。そんな登山家や、冒険家とは似ているようで少し違う、“芸術家”のお話。 なぜ世界一高いワールド・トレード・センターの屋上から屋上へ、綱渡りするのか。観客をまっすぐに見つめ、鋭い語気でジョセフ・ゴードン=レ…

ゴーストバスターズ

リメイクものの勘所、オリジナルテーマのリアレンジとタイミングが、程よく、絶妙で、心躍る。ゴーストの造形における驚きや、本筋のストーリーのダイナミズムに物足りなさを感じるところもあるにはあるが、カメオ出演、オマージュの数々と名“コメディエンヌ…

再会の時

「無情の世界」 大事なことと、そうでないことの優先順位。捨てるものを決断して“いい大人”になることを、拒んだ。選ばされることの苦痛に耐え切れず、彼はひとり逝った。 訃報を受けて、十数年ぶりに再会する嘗ての親友たち。“卑劣で薄汚い”世の中をしばし…

トランス・ワールド

命は“1機”しかないかけがえのない人生も、無慈悲なハードモードにあえなくゲームオーバー……とその時、「そんな人生でいいのか?」ワープの先の悪夢の迷宮は、起死回生のボーナスステージ。タイムリミットまでに謎を解き、協力プレイで“2面”へ進め! ☆3.7 (20…

ロスト・バケーション

流氷に乗る弱ったアザラシを徐々に徐々に、確実に、時間をかけて追い詰めて仕留めてしまうシャチの狩りなど、海のハンターたちのドキュメンタリーを見たのがつい先日のこと。今作の敵はサメではあるが、彼らの狡猾さを目の当たりにした上で、今作の孤立無援…

ノック・ノック

いくつになっても纏わり付いて消えることはないであろう男の性、“逆”レイプファンタジーに招かれる訪問者。そんな幻想が如何にバカで!マヌケで!愚かで!醜い!間違いかを知らしめるように、完膚なきまで男の中の“善き父”を叩きのめす小悪魔たち。打ちのめ…

帰ってきたヒトラー

ある日、友人の語った世界認識が忘れられない。「ユダヤ人の迫害は確かによくなかったが、それ以外のヒトラーの政策は素晴らしかった。あの間違いさえ犯さなければ、より良い世界は実現していた」と、一部容認するかのような態度。もう10年以上前の出来事に…

しあわせの雨傘

『シェルブールの雨傘』から数えること半世紀は、サント・ギュデュルの雨傘。 今や大女優の貫禄を纏うカトリーヌ・ドヌーヴだが、声色や口調からは“世界一の美女”と呼ばれた頃の彼女が鮮やかに蘇るようで、あの頃と現在が重なって存在していることを目撃する…

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

神話をモチーフに、『ダークナイト』以来の金字塔を目指した形跡は散見されるものの、決定的な欠陥は“ジョーカー”の不在。ヒース・レジャーがいない。ジェシー・アイゼンバーグのエキセントリックでファニーな怪演は素晴らしいが、“ピエロ”とも“サイコ”とも…

ザ・ヴァーチャリスト

映画が好きで、言わば“映画セラピー”によって人生を救われている身として、“ゲームセラピー”を批判的に捉えるのは躊躇われるところもあるが、「ゲームと現実の区別がつかなくなる」というクレームの正否はいずれ逆転するときが来るのだろうと思う。ハイクオ…

キャロル

そっと肩に触れる手の、穏やかで、熱っぽく、なんとエロティックなこと。 交差する視線に零れる吐息、波打つ鼓動は、映画だけが醸し得る甘美と言う他ない。全編にわたって注がれる、柔和で繊細、優美なそれは女の愛撫に酔いしれる。 「愛からなされることは…

スケルトン・ツインズ 幸せな人生のはじめ方

生まれた瞬間から知り合いで、幼少期から思春期が過ぎる頃まで秘密の持ちようのないくらいずっと一緒で。同じ時代を同じような年齢で、同じ歌を歌って生きていく。父や母とは、遅かれ早かれ別れの日がスケジューリングされていて、子が大きくなれば親は老い…

プラハ!

自由を謳歌する時代、町にはポップでカラフルなファッションの花が咲く。灰色の世界が、歌とダンスで彩られる。ボーイ・ミーツ・ガール・ミーツ・ボーイ……春、咲き乱れる季節、恋をしている場合なのである。 朝靄に、青々と茂る草花を踏み倒し進む黒々とした…